第2話
私が義兄と初めて出会ったのは5歳の時。新たに出来た家族に私は大きな抵抗を感じた。そんな私に兄は笑いながら「先ずは友達になろ」と言った…それが兄が私に使った一番最初の魔法。
季節は春を目前に控えていた。
リビングにある四人掛けの机の自分の座席に座りながらため息をついた。
「ん?ケイトどうかしたの?」
兄はキッチンでお茶を入れながら私にそう声を掛けた。
ケイトと言うのは私の名前で漢字で書くと華の糸で華糸。よくカイトと間違えられてしまう。
「ん~いつになったら春が来るのかな?って」
私が風邪で揺れる窓から外を眺めながらそう言うと突然お湯が注がれる音が止まった。
不思議に思いキッチンをみると何やら兄は戸棚の中を引っ掻き回していた。そして、ぴたりと止まると悪戯を思いついたように「春、呼んでみる?」と言って笑った。
それから兄が私の目の前に出したのは一本の金色のスプーンがいるてある極普通のホットミルクだった。
「これは…」
私が戸惑いながらそう言うと
「これはね、冬の雪なんだよ」
と言って普通の1リットルの紙パック牛乳をだした。
「僕がこの中に魔法をかけて春を呼んだから、そのスプーンを混ぜてみてよ」
そう言うと兄は笑顔で混ぜるジェスチャーをした。私は静かに金色のスプーンをカップの中で回した。
すると真っ白だったカップの中に一本の桜色の線が浮かび上がった。
そして次第にカップ全体が綺麗なピンク色に変わった。
私が少し興奮しながら兄を見ると兄はとても嬉しそうな顔をしていた。
そっとそのミルクを飲むとほんのり甘いイチゴの味がした。
そっとキッチンを見てみるとそこにはイチゴジャムの瓶が置いてあった。
私がクスリと笑うと兄はナイショと言うように唇に人差し指を当てて笑った。
「きっと明日には春が見つかるよ」
兄はそう言っていつもの少し薄目の紅茶をカップに注いだ。幸せを含んだ湯気が部屋の中に広がった。
次の日、川沿いの道を歩いていると一本の桜の枝がぺしりと当たった。
そしてその枝には今にも弾けそうな桜の蕾がついていた。
~魔術師と春のミルク~ヨリ
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