《ゲムトモ版》魔術師とお茶を一杯。

時計 紅兎

第1話 魔術師とお茶を一杯

私の義兄は魔法が使えます。それは大きな事ではないけれど兄は人を幸せにできる魔法を持っているのです。


私の家にはいつも3つのの魔法瓶のポットとガラス瓶のポットが1つ置いてあります。

3つのポットの中にはいつも少し薄目の紅茶とフレーバーティー、ハーブティーが入っています。

何故薄目なのかと言うと兄が…「幸せは濃すぎると鬱陶しくなってしまうんだ」と言っていつも薄目に入れるのです。

兄曰く。「茶葉の中には幸せが詰まっていて、その大半の幸せは香りに混ざりながら解放されるんだよ」

確かにお茶から立つ湯気やお茶の封を開ける時には何だか口元が緩む気がすると私は思う。

兄は新しいお茶の封を開ける時には私を呼ぶ。そして私に目を閉じさせるすると、サクチョキチョキという音が台所に響く。パチリと切り終わった音がするとまるで風が吹いたように良い香りが私を包み込む。何とも言えない不思議な感覚。まるで空にいて雲に乗っているような春の野原で横になっているような…

どんなに呼ばれた事を煩わしく思っていてもこの魔法を見せられるといつも苦笑するしかないのだ。


「封を開ける時はね、魔法が一番強いんだよ」


兄は笑いながらいつもそう言うとけたたましく騒ぎ立てるケトルに茶葉をさっと食べさせるとケトルから吹き出す湯気に部屋いっぱいに幸せを運ばせる。

ケトルから取り出されたお茶にはさっきとはまた少し違う魔法が含まれていて、それを体内に取り入れれば全身の力がゆっくりと抜けて頬が綻ぶ。


本当の事を言えばそれはただの温かな一杯の紅茶なのだが、それが兄が笑顔で差し出すだけで全ては幸せの魔法に変わってしまうのだ。

最近、私はいつか兄のように人を幸せにできる魔術師になりたいと思ったりする。兄はそれを見抜いているようで

「まずは物の見方を少し変える事。あと笑顔!笑顔じゃないと物の中に隠れた幸せの元は見つからないぞ」

と言われました。


確かに少し嬉しく思えた時に笑顔になってみるとそこで幸せの元が見つかるんですよね。


私は今日も兄のように素敵な魔法が使えるように取り敢えず笑ってみています。


~魔術師とお茶と幸せの魔法~より…

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