起死回生的RPG!
サックン
起死回生的RPG!
約一年前。人々から忘れ去られていた、ある古びた祠から話は始まる。
突然祠を中心に激しい地震が起こったかと思うと、それがパッカーンと見事に割れ、割れ目からはおどろおどろしい紫煙……文字通り紫の煙が立ち上った。一帯は怪しげな雲に覆われ、そこから黒い鱗に紅き瞳、鋭い鉤爪と牙を携えた恐ろしい竜が現れたのだ。その容貌に、人々は思い出す。元凶である祠と、千年前その祠に封印されたとされる邪竜の存在を――――。
すぐ国家による邪竜討伐部隊が組織され、その先頭には邪竜を封印したとされる『勇者』の末裔……と名乗る決して少なくない名家や迷家の数々を表からも裏からも選別し、残った良家を更に厳選した結果、容姿能力共に文句のつけようのない齢十七の少年を奉った。少年は周りに良くも悪くも持ち上げられながら、国家が推したり押し付けたりした者たちや旅の途中で出会った者たちを加え、今や傭兵団としては数の多い、それでも国家の軍からしたら少数精鋭と言えなくもない人数で邪竜の祠に向かっているのである。
回想終わり。
青い空、白い雲、春特有のうららかな気候。
そしてそれに映える(?)、茸を連想させるような鬱蒼とした、森。
そんな森からこちらに向かって、二人の人影が走ってくる。二人とも体格が良いとは言えないが、一人はことさら小さく見える。二人共うんと胸を張り、地面を親の仇であるかのように強く踏みしめ、肩……というか身体全体でぜえぜえと呼吸しているのが遠目でも感じられた。
「やばいぞ……まじでやばい」
一人の口が動く。そこまで小さくない方だ。さっぱりと短い髪、重い一重と薄い唇が地味な印象の男である。タートルネックとズボンに覆われたその身体は厚くないが、うっすらとした筋肉で覆われていることはすぐに分かった。肉体労働をしている身体だ。容姿や等身からしてヒューマンだろう。
「文句言うヒマあったら走る!!!!」
もう一人が鋭く叫んだ。先ほども言った通り随分と小柄である……が、それ以上に整った容姿の女児だというのが印象に強いだろう。ウェーブを描く見事な金髪と、新緑を思わせる澄んだ碧眼。その瞳を囲う睫毛は美しいカーブを描いていて、か弱そうな身体には女性用の修道着と思われる白のワンピースを着ていた……の、だが。
「なぁ……頼むから、裏声で喋ってくれないか……?」
その声色は明らかに男性だった。
「ハァ⁉今更何すっとぼけたこと言ってんだよ⁉」
「いや、だって、この疲労度で隣の可憐な女の子から野郎の声がするの、正直辛い……」
「いやいや、女だと思ってたのはお前の勝手だからね?オレは一言も女だと自己紹介はしていませーん」
「いやいやいや⁉確信犯じゃん!だってそれシスター服だろ!それは完全に騙す気があったということになるからね?つまり立派な詐欺でーす。お前は連合軍にシスターとして在籍してた上シスターとしてがっつり給料もらってたんだろ?確信犯以外の何だっていうんだ!そういうのなんて言うか知ってる?屁理屈だよ屁理屈!」
「ハ⁉あんたオレの契約書読んだのか⁉」
「当然だろ駆け落ち相手だぞ⁉」
「その駆け落ち相手に経歴詐称してたのはあんたも同じじゃねえか!せっかく良家の騎士様から有り金全部巻き上げられると思ったのに……きちんと契約書だって確認して裏だって取ったのに……」
「お前も俺の読んでるじゃねぇか!」
察しの良い紳士淑女の皆様はもうお気づきかもしれないが、一応話しておこう。この二人、有体に言えばしがない詐欺師であった。他の行軍以上に命の危険にさらされる連合軍……つまり勇者様御一行は、他の傭兵団と比べ給料が良く、しかもその給料を出すのは国家なので信用ができる。それを利用し、しかもなるべくお賃金を上げるため、片方は良家の騎士を騙り、片方は良家のお嬢様シスターを騙ったのである。しかしここ数日の戦歴は芳しくなかった。なにせ大将は精神的にはまだまだ少年なのだ。少年自体は紳士的かつ心優しい、そして正義感にあふれた模範的勇者なのだが、人生経験や時に残酷になるための勇気が足りないように思う。行軍としては順調だが、戦局としてみると危なっかしく、先日の戦いでは紙一重ともいえる場面が何度もあった(その間二人は後方支援という体で逃げ延びていたのだが)。元々忠誠心も大儀もない二人は思う。……ここが潮時だと。そしてこうも思ったのだ。……だがこんな恵まれた軍にいて土産の一つもないのは勿体ない。どこかの金持ちをひっかけて軍を抜け出そう。そうだ、駆け落ちなんてどうだろう。丁度あんなところにちょろそうなお貴族様が自分を見て微笑んでいるぞ、と。
……残念ながら両方とも詐欺師であったのだが。
さてこの騒がしい二人だが、散々互いを罵りながらも走る速度は一向に落とさない。背後から追手のような存在が迫っている様子もなければ、二人の目の前に大安売りの旗や先着順を謳う愛らしい売り子が存在するわけでもないのだが……
「とりあえず昨日寄った村から聞き込みするぞ!!オレの目に狂いがなければ、酒場の店主は目が怪しかった!!」
「多分お前がその見た目で酒をがばがば飲んだからだよ……今までよくバレなかったな……」
「数か月ぶりの酒は身に沁みました!じゃなくて」
……ここで急なのだが、騎士を名乗っていたという詐欺師の後ろにもう一人分の人影がある。中肉中背、特別目立った容姿でもない男だ。前方二人に付いていこうと必死で走っているのだろうが、どうしても後れを取っている。年齢は……人口的に割合の高いヒューマンだと仮定するなら、おそらく十七歳ほど。
そう、十七歳だ。
「あ、あの……一度、休憩、し、ま、せん……か……」
「お前の為ですけど!?!?!?!?」
「もうほっとこうぜ……」
シスター詐欺師の鋭い一喝にびくっとする少年。まだ皆は知らないが実はこの詐欺師、ドワーフとエルフのハーフという奇妙な血筋である。ちなみに年齢は五十四歳。愛と夢を守るため、以後年齢の話は極力控えることとする。とにかく今伝えておきたいのは、少年は(なんか自分の父親の口調に似てるな……)という既視感を感じた点だ。
「全く信じらんねえぜ……俺たちは貴族の有り金で豪遊しようと思ったのに……」
「相手は自分と同じくじり貧詐欺師……しかも軍を抜けだしたと思ったら……」
「勇者本人が宿で寝坊して置いてかれてたんですもんね……はは」
「「笑い事じゃねえよ……」」
そう。二人が軍を抜けだしたその足で隣町に向かうと、数日前は毎日見ていたようなそうでもないような顔が町をふらついていたのだった。
「前から思ってたけど、こいつ勇者向いてないわ……」
「この馬鹿勇者!送り届けてやったら報酬はずめよ!」
「じゃ、じゃあお二人が勝手に軍を抜け出したことには目を瞑るので、一緒にまた戦いましょう!」
「「ぜっっっったい嫌だ!!!!!!!」」
さあこの三人組の珍道中、いったいどうなることなのやら。そもそも勇者が置いて行かれていたことに誰も気づいていない点とか、たった数日で馬も荷車もある大軍をすっかり見失う点とかもう色々、それはそれは色々ときな臭いのだが、そこは冒険のお約束。三人の旅……いやお節介道中は始まったばかりだ。
「あ、なんか楽しくなってきましたね!」
起死回生的RPG! サックン @SAKKUN1213
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