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「本当は大きな風呂に入りたいって気持ちもあるんですけどね。最初から男だったらって、つい思っちゃいます」
くるん、と回したグラスの中で氷がかろん、と鳴る。
「ふとネガティブになるのは昔から変わらなくて。でも奥さんが言うんですよ」
「何をですか?」
「許しなさいって」
「許しなさい?」
「無意識ですけど、責めるような口調になっているらしいんです。親とか自分とか。どうして身体も心に合わせてくれなかったのかって。言っても仕方ないって知っているから口にしないようにしていたんですけど、無意識って怖いですね」
きゅっと眉根を寄せて困ったように丸井さんは微笑んだ。
「だから奥さんは許しなさいって言うんです。お義父さんをお義母さんを自分を、神様を運命を許しなさいって」
「厳しいですね」
「マスターもそう思いますよね? 口では簡単でもなかなか難しいです。でも奥さんはずっと僕に言ってくれました。貴方が貴方だったから私たち出会えたんでしょう? って。だからもう許しなさいって」
それから小さく笑って続ける。
「きっと全てを許すことが出来る日はずっと先なんでしょうけれど、とりあえずは奥さんの為にいろいろ許していきたいです」
その笑顔に嘘はなく、とても晴れやかなものだった。
「素敵な奥さんですね」
「僕を見つけてくれたくらいですから」
あぁなんて羨ましい。独身者に、その笑顔は眩しすぎる。
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