三話 「物語の始まり」
「結界ねえ」
再び本来は仮想世界の用語として使用してきたワードが登場する。
――魔法や結界って、ほんとにここはどこなんだ?少なくともさっきの大男の魔法を見る限り、サイエンスフィクションな実験に巻き込まれたっていう可能性もないと見える。
と、再び白兎の脳内で現状の考察を行う。数秒思考を続けて、再び会話に回帰する。
「で、その結界ってどんなやつなんだ?」
「あなた、結界も知らないの!?そういえば服もこの国の人じゃなさそうだし。どこからきたの!?」
少し驚いた口調で次々と言の葉を並べるシリナス。
「まあまあ、落ち着けって。俺だってなんにも分かんねえんだよ。目が覚めて気づいたらあの道の脇にいたんだ。」
「なに、そのへんの物語に出てきそうなシチュエーション。まあいいわ。それより、結界の説明をするわ」
「ああ、そうしてくれ」
白兎が肯定するとシリナスがゆっくりと口を開き始める。
「結界っていうのはね、大きい力の持ち主、例えばこの国で言うと最高位魔術師パウライさんや国王などが、自分の領地を確保するために、指定した人以外の一切の動物や人間の通過を拒否するものよ。」
「ああ、そこまでは大体推測がつくな」
白兎の馴染みのある結界とは少し異なる部分があるが、とりあえずは会話を促す。
「だから当然あの大男がいた場所、あの道も結界範囲内なの。そこに入ってきている人物がいるってことは結界が破られた、と思われるの。そして……」
「そして問題は、その結界が破られた原因として、その国王達が何者かに殺されたかなにかされた、ってことか。」
シリナスが話し終える前に白兎が割り込んで答えを提示する。
「ええ、そういうこと」
「つまり、この国の危機か何かか?」
「現状ではあくまでそうかもしれないってだけだけど」
「なるほどな、はああ」
異世界らしきところに来てまだ半日ほど、その期間で国のピンチだと告白され、深いため息を吐く白兎。
「で、もしそんな状態だったとして、俺らは何かすんのか?」
「とにかく情報が足りないわ。まずは情報収集からはじめるわ」
何か行動に出る気満々で会話をすすめる彼女に、慌てて白兎の声が入り込む。
「いや、だから、国のピンチがどうとか知らねえけど、そんなの、それ用の職のやつがいるんじゃねえのか、例えば騎士とか。別に俺たちが関わらなくても……」
「ダメなのよ、ダメなのよ!」
繰り返し同音の言葉を二度発する。二回目は感情的な部分も少し感じえた。
「ダメって何が……?」
「……あなた、ほんとに気付かないの!?私は……この国の王家の血を引いているのよ。」
その衝撃の告白後、白兎は数秒間黙り込んだ後、
「はあ!?気づくかそんなもん!!」
「こんな大きい家に住んでいるんだから、それなりの身分だと推測できたでしょう?」
「まあ、そりゃ、たしかに。でも、まさかお姫様だなんて思いつくわけねえだろ」
「お姫様……?どうして私が?」
「いやだって、さっき王家の血を引いてるって……」
「ド直系じゃないわよ。国王の弟の子供が私、つまり国王は私にとっておじさま、ってわけ。」
年齢と容姿と王家の血を引くという定義から国王の娘だと推測していた彼は、少々衝撃を受け、脱線しかけた会話をもとのレールに戻し始める。
「で、血縁関係がある国王に何かあったのか心配だからこの出来事に関与すると?」
「ええ、そういうことよ。まあ、あなたにも情報収集は手伝ってもらうけど。」
「は?何言ってんだ?俺はそんな面倒事に関わる気は……」
「じゃあ、手伝ってくれたらこの屋敷に寝泊まりする権利をあげるわ。どうせ宿もお金もないんでしょ。」
「喜んで手伝わさせていただきます」
その提案を受け、白兎はハイテンションなことこの上ないテンションで返事をしたのであった。
後から考えると、白兎にとってこれが全ての始まりであり、同時にこの物語のスタートでもある。
また、彼を日常から非日常へ誘った瞬間でもあった。
マジックファンタジー・オブ・サイエンス @yayoi-sora
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