第2話 力を知り、己を知る。

「さぁ、ついたよ」


その声で成瀬は恐怖からつぶっていたまぶたを開ける。


「こ、ここは?」


視界に広がる世界は見たことのない場所。

背後には城のような建物さえある。


「ここは僕らの街さ」


「僕ら?」


「そう、僕らさ」


ユウは自分自身と成瀬を交互に指さして微笑む。


「なんで私が……?」


「君は選ばれし『アホ毛族』なんだよ」


ユウの目線は成瀬の頭の上にのっかるアホ毛に向いている。


「アホ毛……族?」


まるでなにかのゲームのような……、

それもバカゲーだ。


「そう、君にもついているアホ毛、それこそアホ毛族の証だよ」


背が高くて見えにくいけれどユウにもアホ毛がついているようだ。


「君のアホ毛、そこからはものすごい力を感じる……僕らにはそれが必要なんだ」


爽やかな容姿の瞳には意志なのか、何かがジリジリと伝わってくる。


「な、なにか深いわけがあるの?」


「はい……」


ユウは目を閉じて語り出す。


「あれは僕のおじいちゃんのおじいちゃんの……まぁ、何代か前のおじいちゃんの話」


「冒頭からテキトウね……」


「まぁまぁ……おじいちゃんたち、アホ毛族はこの世界を治めてたんだ……」


「ちょ、ちょっと待って!」


「ん?何?」


「この世界って……まさかここは異世界だとか言わないわよね?」


「そのまさかですよ、それで……」


ユウは微笑みながらあっさりと流す。


「えぇ……そこ大事だよ?」


「静かにしてください、話してるんですから!」


「えぇ……なんで私が……」


仕方なく状況を整理しきれないまま話を聞くことにした。


「でもね、ある日、アホ毛を持たない民族が攻めてきて激戦が繰り広げられた、

戦いは数日続いた後に世界を半分に分ける結果となったのです……めでたしめでたし」


「めでたくないよね?めでたくはないよ?話的には……、ていうか本丸暗唱しないでよ」


ユウは持っていた本を閉じて笑う。


「ってわけで協力してくれる?」


「きょ、協力って言われても……

私にはあっちの世界があるから……」


「大丈夫だよ、向こうの世界の住人からは君の記憶と認識は一時的に削除してあるから」


「……って大丈夫じゃないよ!

どこが大丈夫なの!?やばいよ!

私は元から存在していませんって状態なんでしょ?どうすればいいの!?」


「まぁまぁ、落ち着いてよ、帰ったらちゃんと丸く収まるようにするからさ」


なんて無責任な人なんだ……

成瀬は半分絶望しかけていた。


「でも、アホ毛族は沢山いるからさ!

ここにいても損はしないと思うよ?」


損はしない……つまり、得をするかはわからないということだろう。


「というかなんで私を連れてきたのか、まだ聞いてないんだけど?」


「あ、忘れてたよ、じゃあ着いてきて!」


そう言ってユウは城の中へ入っていく。


「え……なんで一緒に行くこと確定なの?」


不満をこぼしながらもありえないほど広い城の中で迷わないようにユウを追いかける。




「はぁ、はぁ、なんて広さ……」


成瀬が息を吸って吐くたびに頭のアホ毛も上下する。


「さぁ、ここだよ」


ユウは目の前の大きな扉を開く。


「団長、つれてきました!」


扉の向こうの部屋もまた広く、だが、置かれているのは立派な机だけ。

あれだ、よくアニメで理事長が座ってるタイプの机だ。


「連れてきた?だれを?」


そこには小柄な女の子が座っていて頬杖をついて暇そうにしている。


「誰を?って決まってるじゃありませんか、戦力になりそうなアホ毛族ですよ」


「あぁ、あれか……そう言えば言ってた気もするなぁ」


「な、なんだかのんびりした方ですね」


豪華な部屋に体が恐縮して何故か改まってしまう。


「団長はあれでもアホ毛族最強セブンに入る方だからね」


ユウが言うには最強セブンとはアホ毛族の強者たちのことで7強がいるらしい。


「団長、ちゃんと覚えていてくださいよ!

まさか彼女の入団手続きがまだ、なんて言いませんよね?」


「あ、忘れてた……」


「え、しっかりしてくださいよ!」


「ごめんねぇ てへっ」


「可愛い顔してもダメです!」


「いや、仕方ないじゃん?

だって私、君の言葉の8割は聞き流してるからさ」


「ひ、酷い!なんて適当な人なんだ……」


なんて茶番を見せられているんだ。

成瀬はそんな気持ちでいっぱいだ。


「適当なのはあなたも言えないでしょ?」


「ま、そうですね」


「軽!?」


というか、さっき入団手続きとか言ってたような……


「あの……入団って、まだ決めてないんですけど……」


「あれ?君は知らないの?」


「なにを、ですか?」


団長のいきなりの問いかけに少々たじろいでしまう。


「アホ毛族はこっちに来たら1年は入団歴がないと帰れないんだよ?」


団長の顔に悪そうな笑みが浮かんだように見えた。


「え……」


「決まりだからね、破ることは出来ない、

破ったものは一生地下牢行きだからね」


「え、でも!勝手に連れてこられて……」


「事情がなんであっても決まりは決まり、いちゃもんつけて帰ろうなんてうまくはいかないよ」


「えぇ……」


最悪だ、私の貴重な高校生活1年分をいったいどうしてくれるんだ……


「はいはい、落ち込んでないで入団テストを受けてきて!手続きは何とかしとくから」


「わかりました、団長」


ユウは落ち込む成瀬の腕を掴んで引きずっていく。


引きずられて着いたのは城の建物に囲まれた訓練所のような場所。


「ほら、成瀬くん、いつまでも落ち込んでいちゃダメだよ?」


お前のせいだと言ってやりたい。


「……ごめんね、無理やり連れてきちゃって、でもね、こうするしかないんだ」


さっきとは打って変わって寂しそうな目をするユウ。


「君は正攻法じゃ来てくれないだろうからって……君がいなきゃノーマルには勝てないんだ」


ユウはついに涙をこぼす。


「……ノーマル?」


「あ、まだ言ってなかったね、2つにわかれた世界には僕達アホ毛族と……

もうひとつ、アホ毛を持たないノーマルがいるんだ、彼らは機械化とヤラを進めてどんどん強くなっていったんだ……

だから、勝つためには強い力が必要なんだ」


「勝たないといけないの?」


「うん、ノーマルたちは勝つ度に僕らの領土を奪っていく、僕らはそんなことはしたくない、だから、勝って奴らの進行を抑えなくちゃいけない」


つまり、自衛戦ということだろう。

相手を傷つけはしないが自分を守るために戦う。


「……わかった、手伝う」


「え?」


「私がどこまで役に立つかなんてわからないけど……期待されてる以上は、頑張らなくちゃいけないじゃん?」


軽い言葉で言ってみたが重い思いは込めたつもりだ。


「本当かい?ありがとう!」


ユウはこの国が本当に好きなんだろう。

満面の笑みで何度もお礼をしてくる。

頭を下げるたびに黒髪のアホ毛が揺れる。


「よし、入団テストを受ける資格はあるみたいだな」


と、突然背後から声がして振り返る。


「や、私が入団テストを行う者だよ」


そこには成瀬と同じくらいの女の子が立っていた。


「あ、よ、よろしくお願いします」


「そんなに改まらなくていい、ただお前の力を測定するだけだ、たしかまだ技を使ったことがないんだよな?」


「……技?」


「あぁ、アホ毛族が使うことの出来る武器、それぞれに宿る力をアホ毛から発射するという技だ」


「え、そ、そんなの使えませんよ!

無効でも使ったことないですし……」


「当たり前だ、あっちの世界には魔力を発動するためのマナが大気中にないからな、

こっちにはたんまりとある、

お前にも使えるはずだ」


「そうですか……」


「ほら、アホ毛に集中しろ!

そして力を頭に送れ!」


成瀬はグッと体に力を入れて頭に力が流れるイメージをする。


「お、そうだ!筋がいい!もっとだ!」


「んん……!ぐぐぐぅ!」


頭になにか衝撃を感じた。


「よし!今だ!全てを放て!」


成瀬は全身に入れていた力を前に飛ばす。


すると頭の上から赤い光線が放たれた。


「こ、これは……」


「凄まじいパワーだ」


ビームが当たった壁は粉々に砕け、ポッカリと穴が空いてしまった。


「あ、すすす、すみません!」


「気にするな、詫びたいなら力で返せ」


つまり戦闘で役に立てと……


でも、これがアホ毛の力……


「どうだ?すごいもんだろ?

特にお前はすごい力だ、充分役に立つぞ」


満面の笑みでそう言う入団テスト係さんのアホ毛が可愛く揺れる。


「文句なしの合格だ!」


喜ぶべきかわからないが表彰をもらったらなんか嬉しくなってしまう。


成瀬はユウと並んで団長にそれを見せに行った。


「お、合格したのか……チュパッ

良かったじゃないか……チュパッ

手続きは……チュパッ

済ませてあるぞ……チュパッ」


団長は棒付きの飴をしゃぷりながら書類にハンコを押す。


「これで君も……チュパッ

戦士だな……チュパッ」


入団……さっきの光線……異世界、

訳の分からないこと続きだが何か一つ、進んだ気がする。


「ま、と言っても仕事はほぼないけど……」


「……でしょうね」


団長を見ていればわかる。

トップがこんな怠けていられるなら下はもっと暇だろう。

はじめから察してはいたが……


「ま、とにかく頑張ってねぇ」



手を振る団長を背に二人は部屋を出る。


「では、これが成瀬くんの部屋の鍵です」


「部屋はあるんですね」


「はい、それくらいは配慮しますよ」


「ありがたく受け取っておきます」


ユウから鍵を受けり、案内してもらう。


部屋は城の別棟のようだ。


しかも入ってみると……


「き、綺麗……」


圧倒的に綺麗で広い。

豪華な内装でまるで高級ホテルの一室、いや、それ以上……!


「では僕は隣の部屋にいますね」


そう言ってユウは部屋から出て言った。


それにしても広い。


だが、よく見ると部屋の隅に見覚えのある荷物がある。


「私の部屋にあったやつだ……」


まぁ、当然か。

向こうじゃ私はいま、存在しないはずなんだから……

荷物も無くさないといけないんだもんね……


理解して入るけどその事実に目頭が熱くなってしまう。


でも一人になってみると今まで気づかなかった疲れがどっと押し寄せる。


そう言えば今は向こうでは深夜くらいなんだ。

学校帰りにさらわれたんだから……

だが、外はまだ明るい。

時間が逆転しているようだった。


「……少し寝よう」


立っていられないほどの眠気に豪華なベッドに倒れ込む。

眠りに落ちるのに、そんな時間はかからなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る