間章ⅩⅩⅩⅧ<聖印守護者 流源>
泉の上で、あの卵型の座椅子がゆっくりと揺れていた。
その中に身を横たえた流源。虚海空間と、青白赤黒四色の鳥居に囲まれた、暗渠のような泉。
特殊高次元、<高天原>。
記紀神話を生み出した、そして日本における霊脈の中枢となる、幻世界の中央。桃色に輝く銀珠カザーツィアを、まるで小動物を慈しむかのように撫でていた流源は、さもおかしそうに躰を揺らし、笑った。
「これで日本の霊脈の源泉は護られたということか……天照大神ら天津神はさぞ安泰だろうて、のぉ」
鬼姫である舞や、壬生九朗を迎えたこの地も、いまや不気味なまでの静寂に支配されている。
だが、それで事態が終わりではないことを、流源は見抜いていた。東享を霊的に封じ、各所に設けられた寺社を基点とした結界に祈祷により力を装填。復活しかかっていた将門の地霊と共に、そして徳川の霊廟の力を借りて外的因子を堕天奈落の只中に突き落とす。
結界は再び結ばれたのだ。しかし、その下に渦を巻くものは、いまだ尽きぬ。
「この戦乱も、ひとたびは終わるであろうなぁ」
しかし、それで済むという保証はない。
流源は感じていたのだ。
飛ばされ、冥府に落とされた者たちが、まだ生きているということを。
ざわり、と水面に緊張が走り、光が生まれる。
「邇邇芸神、八意思兼神、天手力雄命、天児屋命……わし一人を消しても、どうにもならぬ」
高まってくる霊圧をものともせず、流源は呟いた。
「わしはただの聖印の守護者に過ぎんよ。同じく剱と杖の守護者もまた、他の戦乱を見届けておる」
流源は額に浮かぶ紋章に、指を触れる。
かつてそれを身に刻んだ術師の記憶と共に、彼は新たな守護者としての任を受け入れたのだ。
遠い戦乱の中で命を落とした、高位魔術師ファークデルダ。そして邪龍の魔力を一身に受け傀儡と化した魔術師アムレイズ。
既に写本は守護者を必要としてはいなかった。それよりも、戦乱を意図的に発現させることで能力者の選出を行い、それを宿主とする手法にたどり着いたのであった。
封じよ。
これ以上、写本を放置してはならぬ。
我等が介入すれば、それに応じ、運命の車輪は再び大きく回りだす。
それだけは、避けねばならぬのだ。
流源は天を仰ぎ、そしてまだ鳴り止まぬ鳴動を感じる。
「東享は封印されておる。だが、奴らが黙っておるかのぅ?」
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