最終章
間章XXXX<写本探査>
尖塔のように突き出た岩の塔の頂上で、激しい風にあおられつつ、直立する魔術師がいた。
紫の長衣を纏う、エフィリム・アルファロッドである。ばたばたと裾に風を孕ませつつ、遥か眼下で蠢く、暗くよどんだ魔力の奔流を見やりつつ。
掌を上に向け、エフィリムは小さく呟く。
「集え、ラウローシャスの遺産……数多の魔術師によりて導かれし汝<紫の園>、<偽りの光>……!」
魔界の瘴気さえも退かせるほどの純粋な魔力が喚起され、エフィリムの掌に収斂し、形を結ぶ。
幾重にも重ねられた、鉄の封印の施された革装丁の古びた書物。表紙には奇妙な方陣が施されており、それをぐるりと囲むように七つの小さな窪みがあった。
それぞれの窪みは、極小さい石の粒が収められるであろう程度のものだ。
そして七つの窪みのうち、二つまでには、石がはめ込まれていた。
緑色の鮮烈な光を宿す宝玉と、暗い深遠を髣髴とさせる石片。その二つの石によって、今エフィリムが手にしている写本が、二冊分の融合した証であることが知れた。
二つの世界において、暴虐の限りを振るっていた二冊の写本。隻眼の魔術師によってそれらは封印を施され、力を練られ、自我を限りなく抑制された
しかし、残る写本はあと五つ。それらが別個に持てる限りの力を嵐のように振るい、今も何処かで着実に世界の調和を乱しているのだ。
ゆっくりと崩壊する世界は、しかし新たな再生の力を呼び起こそうとしているのか。
「この地に眠る同胞を呼び起こせ。今、汝らは次なる同胞を取り入れ、鍵もて神界の扉、開かん」
破壊音が響き、重々しい鉄の封印は遥か下へと落ちていく。
戒めのなくなった写本は、エフィリムの魔力を感知し、すぐさま頁を開いた。ばらばらと風を起こさんばかりの速度でめくれていくうちの一枚を、エフィリムは細い指でつまみ、そしておもむろに千切り取った。
引き裂かれた紙片には、
エフィリムはその紙片を、二つ折りにすると、やおら中空に投げ上げた。紙片はまるで意思を持っているかのように、折れ曲がり、ねじくれ、そして紙で出来た奇怪な鳥の姿となる。
「抜け駆けは許さないよ……お前のやろうとしていることは、何でもお見通しさ。ねえ、シャトー?」
写本の頁で出来た鳥は、エフィリムの頭上を旋回しながら二度ほど甲高い鳴き声を上げたかと思うと、一直線に空を裂くように飛んでいく。
見つけたか。やはり、まずこの魔界に我々を導いたのは、写本であったか。
とんと岩を蹴り、虚空に身を投じたエフィリムは、落下と同時に姿を消し、宙に溶ける様に消えた。
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