間章Ⅲ<霊穴>
「陰陽将校……ねぇ?」
細い指が繊細なグラスの足をつまみ、中に満たされたワインをくるくると弄ぶ。
仄暗い部屋の中には、時折ぎしりぎしりと緩慢な間隔を置いて、何かが軋む音がしているほかは何も聞こえぬ。声すらもどちらからしているのか分からぬほどの、それは奇妙な部屋であった。
声が聞こえねば人の気配は無い。
しかし声を聞けば、そこに女の気配が生まれる。まるで部屋全体が生きているような、そんな不気味な印象さえ受ける。
「平将門……帝都の守護者……?」
「三つ目と言う事ですね」
別の声がした。
「レオ・バッシェッカーの報告では、福岡の
「しかも、それぞれが別個の霊源ということ」
「懐柔もせず、契約もせず……これだけの
「そうではありませんよ」
豊潤な酒精の香りが部屋を満たしていく。
「この国では、霊的な所作をそうとは知らずに民が行い続けている……いわば生活習慣そのものが、国家レベルで行われている魔術儀式に相当します」
深い溜息が、香りを乗せて肺から吐き出される。長く続く呼吸音とともに、衣擦れの音が聞こえてくる。
「だからって……」
「さらに言うならば、この国と霊的位相を同じくするように巨大な神霊力の源が存在します。各地で怨霊という名を冠せられている魂魄と残留思念によって稼動している擬似神格霊は、そうした力が
言葉を切った途端に、闇の中から一人の女が姿を現した。
薄い生地で出来た長衣を纏っている為に胸と腰の丸みが見て取れたが、対照的に髪は短く刈られている。その気になれば、男装することもできるのではないかと思わせるほどに、奇妙な存在感を与えてくる女だ。
「一振りの
「指向性の強い精神力で無意識の海に一斉干渉した結果……とでも言いたいわけね」
「とにかく」
女は唇を動かす事無く、そのまま部屋を突っ切って扉の前に立つ。
「日本への霊的干渉に呼応する形で、排除しようとする力もまた動いてきますよ……ペリー提督訪問時とは比べ物にならないほどの、強い排除力が」
「あなたと私とで殺戮した……あの術師集団よりも?」
「無論」
女は扉に当てた指に力を入れようとしたが、何かを思いついたように振り返った。
「原初宗教に見られる
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