間章Ⅶ<天磐戸>
薄暗い広間であった。冷たい板張りは、最奥に鎮座された円形の光源より放たれる白い輝きを反射し、硬質な光を宿している。
台座に安置された、白い円形のそれ。周囲には青銅で象られた龍の紋様があしらわれ、御簾の向こうで煌いている。暗く黒い色彩を帯びる板張りの左右は、やはりこちらも御簾がいくつも垂れ下がり、長方形の形に空間を矩形している。
だがこちらの奥にはそれぞれ、人の気配があった。目を凝らしてみれば、おぼろげながらでも、薄闇に浮かぶ座した者の輪郭が伺えるであろう。しかし見ることが出来るのはそこまでだ。御簾の向こう側にいる者が何者であるのか、そこまでを見透かすことはできぬ。
<
第五活動可能領域<
冷たい光を放っているものは、太古の時代、首都の名にも冠せられた天磐戸に隠れた天照大神を誘うために準備されたと言われている宝物の一つ、八咫鏡。その光に照らされて、唯一姿を現している、公安評議会からの使者は、頭を垂れた。
「面を上げよ」
「は」
正装である衣冠束帯のまま跪いていた使者は、紫の指貫を覗かせつつ、上体を起こす。
「ご報告申し上げます。これより半時間ほど先立ちまして、<
ざわり。空気が一斉に緊張と興奮をはらむ。
「して、原因とは」
「戦闘展開領域の残存因果律の復元により、攻撃手段はM.Y.T.H.と特定されましてございます」
M.Y.T.H.。
正式名称を
「魔術的秘儀」の名を持つその兵器の名は、最高評議会に列席する議員を驚かせるには充分すぎた。
「公安評議会の決断は確かか」
その声に、使者は一瞬の沈黙を挟み、そして再び頭を垂れた。
「星間世界観測所にて、瞑想師が三名、同時刻にて発火現象により命を落としております。いまだ召喚された神族及びその系列調査は進んでおりませんが、M.Y.T.H.の使用は確実なものと思われます」
りん。
鈴の音が、八咫鏡の掲げた御簾の向こう側から響く。
「ご苦労であった。追って仔細の報告を願う」
「失礼致します」
再び床に額を当てるほどに一礼し、使者はその場を後にする。
L.E.G.I.O.N.による凶行。彼らによる、M.Y.T.H.の開発状況及び、その入手経路。
特定を急がねば、いつその牙が自分たちに向けられるかわからぬのだ。言いようの無い不安が、まるで影となったかのように、議員の襟元から忍び込み、そして悪寒を感じさせていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます