新編 L.E.G.I.O.N. Lord of Enlightenment and Ghastly Integration with Overwhelming Nightmare Episode8
第七章第三節<Blade of silence>
第七章第三節<Blade of silence>
反政府地下組織。
ヴェイリーズは、自分の正体をそう明かした。
それはすなわち、自分たちを信頼しているということなのか。否、その言葉が本当であれば、だ。疑い出せばきりが無い。事実、メイフィルの話では、ヴェイリーズは<
つまりはレジスタンスというわけか。
「悪いが、子どもの遊びに付き合っている暇は無い」
やや長い沈黙のあと、ラーシェンが口にした言葉は冷たい拒絶を含んでいた。
ポケットに指を入れると、振り向きざまにそれを放る。反射的に手を伸ばして受け取るヴェイリーズ。掌で、投じられた金属片は七色に輝いていた。辺境ではもっとも一般的に取り引きされる、希少金属だ。
「祓の代金だ。世話になったな」
ヴェイリーズの顔色が変わる。
「ちょっ……と、待てよッ」
背を向けるラーシェンの肩を、指が掴む。
「あんた、<Taureau d'or>がこのままでいいって、本気で思ってるんじゃないだろう」
「俺には関係ない」
背を向けたまま、短く応える。とりつくしまも与えない、拒絶。だがそれは、ヴェイリーズの興奮に油を注ぐだけの結果に終わった。
「……本気かよ」
ヴェイリーズの声は震えていた。
「あいつらが、王家の連中と組んで、何やってんのか……知らないはずはないだろ」
ラーシェンの顔が、やや俯く。まだ血の気の悪い唇をぐっと噛み締め、ラーシェンは息を殺す。
「それともあんた、自分は放浪の身だから……それだから、自分には関係ないなんて、思ってるんじゃないだろうね?」
ラーシェンの口が、何かを言いかけ、そして噤まれた。眉間に深い皺が寄る。
しかしその様子は、ラーシェンの背を見ているヴェイリーズからは見ることが出来ない。
「……分かったような口を利くな」
躰を小刻みに震わせているラーシェンは、それだけ言うのが精一杯だった。
ヴェイリーズの指から、力が抜ける。それを、諦めの承諾を受け取ったラーシェンが一歩、踏み出したときである。
「お前にこそ、何が分かるッ!!」
まるで部屋の空気それ自体を震動させるかと思うほどの、強烈な声量がラーシェンを打つ。
「この街を見て、あんたは何も感じないのか? この街を活気づかせているのは、あんたたち放浪者と、旅人と、流れてきた商人ぐらいのもんだ!」
街路に溢れているのは、ほとんどが旅人。財を落とす者は、この街の現状を知らない。
この街に住む者は、ここでしか生きられない。
最初はまだよかった。ここが交流の拠点として成り立っていた頃は、財は平等だった。旅人はここで物資を補給し、疲れを癒し、落としていく金は街の人間の手に残った。
だが、その状態は長くは続かなかった。辺境惑星として、人が住むにはあまりに過酷なこの地において、ようやく根付いたこの街に、<Taureau d'or>は一つの提案を持ちかけた。
ここに、回廊への港を建設する申し出を行ってきたのだ。それが、この街の荒廃のきっかけとなっていた。
港を建設した<Taureau d'or>は、次々に街の自治権に干渉を行ってきた。次に<Taureau d'or>が影響力を及ぼしたのは、街の商人に対してであった。
<Taureau d'or>の財務省長発行の許可証を持たぬ者は、営業する場所に一定の制限を課せられることとなる。許可証は発行に手数料がかかり、また定期的に販売税として少なくない金額を納めねばならぬ。
そうした経済的負担に耐えられるだけの商人というのは、ほんの一握りの、しかも外来の商人だけであった。元々街に暮らしていた者たちはそうして追いやられ、そしてさらに追い討ちをかけるかのように、様々な増税が課せられている。
一見して、賑やかに見えるのは、外来の商人が旅人目的の商売をしているからだ。だから、旅人がいくら金を落としていったとしても、この街に残る金は殆どないのだった。
「先週、<Taureau d'or>は俺たちに、通告してきやがった」
曰く、近いうちに王家の婚礼が開かれる。そのための財源確保のため、取引税をこれまでよりも二割増やす。
「ジェルバール・グルグ・アイニーク・フォレスティア……何度も何度も聞かされて、今じゃ思い出しただけで反吐が出る名前だ。どこの誰だかも知らない人間のために、なんで俺たちが金を出さなきゃいけないんだ!!」
力任せに、壁に拳を打ち付ける。
はっと、ラーシェンの瞳が見開かれた。
「王家ってのは、てめえの身内の結婚式の金もないような貧しさじゃないだろうが!! その理不尽さを、あんたは……」
いつの間にか、ラーシェンはこちらを向いて立っていた。
その表情は、数多の感情が入り混じっていた。一つ一つを詳細に伺うことすら不可能なまでに交じり合った、渾然一体となったそれは、多くの色彩を混ぜれば黒に近くなるように、ただ静謐を宿しているのみ。
「……なんだよ」
「自分たちがやっていることに、誇りがあるというのなら、見せてみろ……祓の礼だ、一回だけ、力を貸そう。それでいいな?」
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