9話 もぬけのから

 目が覚め、窓から部屋を覗いた。目に映ったのは、信じられない部屋の姿だった。


 床に人が一人通れるような大きな穴が開いていて、そこに姫様の姿はなかった。

 夜に、何の気配もなくて安心して眠ってしまった自分を今は殺したい。その油断の隙を突かれて今、姫様は城にいないのだから。


 旦那様にそのことを報告すると、旦那様の表情は深刻そうな顔を演じる嬉しそうな父の顔になった。昨晩、旦那様が青葉様に依頼した通りの結末になったのだから、嬉しいのだろう。


 普段は書類の山を見ると不機嫌になる旦那様が、喜んで仕事と向き合う姿は、どこか新鮮だった。だが、その姿も、今は僕が恨む対象になってしまう。


 姫様を外に出してはいけないはずだった。


 あの力が発動してしまうえば、今この世界にいる者にはだれにも止めることができない。だから、あの部屋に閉じ込め、予防線を張っていたのだ。


 政治的には、これは正しい判断で、仕方のないことだったのだ。


 旦那様は、その政治的正義を全否定し、姫様を青葉様とともに外に連れ出したのだ。


 急いで、奥様にも報告に行った。


 叱られると思っていたが、僕が叱られることはなかった。


 奥様は、王の間へと足早に進み、旦那様と話をしに向かった。


 それから数分もしないうちに頬を叩く音が聞こえたのは言うまでもないだろう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る