8話 本当の空を見てほしい
今日、部屋を出て行ってしまった時からもう一回聞きたいと思っていた声だ。
「いるけど……。」
「よかった。」
この声を聞き間違うはずがない。間違いなく、箔の声だ。大声で名前を呼びたいところだが、外には大原がいる。ここは一旦冷静になって、隙間に自然に近づき、声を潜めた。
「見張りは、誰がいる?」
「大原が。って、箔だよね?」
「あぁ。」
分かってはいたが、箔だと確信できると、嬉しかった。
それと同時に、疑問ができた。
「何で、箔がこの隙間から私に声をかけているの……?」
「いやぁ、それは秘密。」
箔は明るくそう答えて、しばらく黙った。
そして、何分か経って、箔はとうとう口を開いた。
「……この隙間、大きくしてくれねぇか?」
一瞬、何を言っているのかわからなかった。
この隙間を大きくしてしまったら、外に出てしまう。
外に出たくないわけじゃない。何度も出ようと考えたこともあるし、始めの頃は、英兵を魔術でぶっ飛ばして脱走したこともある。だけど、もうすぐで外に出られるというところで、足が止まってしまう。
外に出たことが親に知られて連れ戻された後に何をされるのかが怖かった。今回は、箔まで巻き込んでしまう。迷惑をかけてしまう。
隙間に手をかけるところまではできている。なのに、そこから力を入れることができなかった。私には、外に出るほどの強さはない。
箔に迷惑をかけない方法は、私が外に出ないで箔を無事に鏡の国に帰すこと。それが、箔にとっても一番幸せな選択だ。本当は、箔と外に出たい。だけど、箔に迷惑をかけるなんて、私には耐えられなかった。
だけど、箔の言葉は私の感情をあっという間に消し去った。
「俺は、季楽に本物の空を見てほしい。俺と、外に出よう。」
隙間から除く、その目には意志があった。
龍の国の姫をさらったと知られれば、箔は国家反逆者として指名手配される。それを箔は全部承知の上で言っているのだ。
私は「迷惑をかけたくないから。」という理由で箔の言葉を無視することができなくなった。
「分かった。」
本当は何も分かっていない。
私にこの隙間を大きくすることなんて、無理に決まっていた。ここ十一年の間一回も練習をしていない私の体はもうなまっていて、そんな大それた術を使うのは不可能に近いはずだ。
なのに、隙間にかけていた手に力を入れただけで、力を入れた部分から砂のように音もなく床が崩れた。
不思議に思ったが、これを幸運だと思って、私は箔がさし伸ばす手に手を重ね、体を箔の力にゆだねた。
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