7話 花咲く夜
夜になり、花火の音が響く。
大原は、ずっと扉の前にいる。さっき、大原が走って扉の前に来た。外の様子を報告しにきたのかと思ったが、そのような雰囲気は全くなくて、焦っているような目をしていた。
「どうしたの?」と聞いたら、大原は何も答えず、私をただ冷たい目で見てきた。
普段の優しい執事の顔じゃなく、私を敵と思っているような、そんな顔だった。
朝、命令したにもかかわらず、祭りの様子を教えてくれない大原に腹が立ったが、大原にはそんな余裕がないらしい。
私の監視をしていないと、気が休まらないとでも言いたげだった。命令違反はいけないことだが、初めての事だから許すとしよう。
花火の音を聞きながら、今日の事を考えた。
箔と出会った事を思い出すたびに、今でも顔が緩んでしまう。
今まで生きてきた中で、大原以外の同年代の男の子と話したことのなかった私が何時間も箔と話すことができたことには自分でも驚きが隠せなかった。
なぜ、お父様が箔を鏡の国からわざわざ龍の国に呼んだのかはわからなかったが、今気づいた。今日やっている祭りは、龍王祭りだということに。
龍王祭りは、龍の国伝統の祭りで、この世界にこの大陸を創った龍王を祀るための祭りだ。世界的にも有名で、いろんな国から観光客が来る。
箔の実家は龍の国の国民もよく訪れる服屋。日頃国民がお世話になっているお礼として、お父様が祭りに呼んだのだろう。
ということは、祭りが終わる明日には、箔は帰ってしまうということだ。
幸せな浮かれた気持ちは、あっという間に消え失せ、私を悲しみの淵へと追いやった。箔と離れたくない、箔とずっと友達でいたい。
今まで感じたことのなかった感情が溢れた。気づけば、目から暖かい水が流れてきていて、これが『涙』だと初めて知った。
服の裾で『涙』を拭った。はしたない行為だということは分かっていたが、手元にハンカチがあるわけではない。仕方がないということで、今回は自分を許した。
「……季楽、いるか?」
「……!」
『涙』が止まったと同時に、希望の隙間から声がした。
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