3話 季楽姫

この部屋に11年。


 外を見ることも許されない毎日に、そろそろ嫌気がさしてくるころだ。


 この部屋で暮らすというのは、これほど耐え難かったものだっただろうか。変わることのない日常。決められた時間にご飯が来て、決められた時間に寝る。何の変化もない、つまらない日々だ。


 そんな日々に耐えられなくなり、何度も首をくくって死のうとした。しかし、私には死を選ぶ権利さえもない。公表されてはいないものの、私はこの世界でトップを誇る龍の国の姫。私情で死ぬことなど、許されない。


 直接会って誰かと話したことも、1回もない。そんな私に仕えていて、大原は楽しいのだろうか。


 私が見ることができる人の姿は、監視用にある窓越しのシルエットだけだ。


 顔を見ることはできない。大原の顔も、私の中ではまだ3歳の時のまま。


 誰とも必要以上の会話はしない。そんな生活に慣れてしまって、笑顔の作り方さえも忘れてしまった。


 無理して笑おうとはしているのだ。日々、私のためにここまで来てくれている大原ぐらいには笑おうとしている。それなのに、思うように笑うことができない。姫として、作り笑顔はできなくてはならないのに。


 どんな祭りだったかは忘れたが、今日は祭りがあるらしい。抜け出して見に行きたいとは思った。だが、その必要はない。


 最近見つけた、壁にある小さなひび。その隙間から、少しだけ町の様子を見ることができる。これは、大原にも内緒な私だけの秘密だ。


 外の様子を窺おうと隙間に近づくと、声が聞こえた。


 父上の家臣達の声だった。


「鏡の国から、客人が来るらしいぞ」


「王直々に呼ばれた客人だろ?どんな奴だ?」


 父上が客人を招き入れることは、ほとんどない。龍の国の者じゃないとなると、なおさら。一般の出の者が城に入るなんで、聞いたことも見たこともない。


 しかも、その客人は鏡の国の洋服店の息子らしい。


 隙間を覗けば見えるかと思い、覗いてみると、鏡の国の服を着た男が見えた。鏡の国の伝統の服を身にまとった男。少年のようにも見えた。


 その男が城門をたたくと、扉が開いた。扉から現れたのは、大原で、男を中に招き入れた。その男は、家臣が言っていた、客人だったのだ。


 名は、「青葉箔あおばはく」。


 家臣が、そう言っていた。

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