最終話:「本日からダンジョン屋は大盛況となりました」
世界に魔族が現れても、ビラを配っても一向に客がこない。
あれから一週間以上経つのだが!
貯金を1万引き出しても全て食材に消えていく。
「おいシス、ベルゼ、日がな一日料理本を読み漁りながら食うべっこう飴はうまいか?」
「ふぉえ?ふぉいしいぞ?」
「ふまいな。実にふまい。」
「いや、俺は皮肉っているんだけどな…。おいー魔族の化身とやらを世界に出現させたら人が殺到するんじゃなかったのかよー。閑古鳥すら鳴かなくなってるぞ」
「心配するでない。そのうち来るじゃろ。あのツバキとやらの一行が国に帰っていればな」
いればなって、仮定じゃねえか。
こうなったら財産が減るのはイヤだが、チラシ作戦を続けなければ死ぬ!
その時結界に反応があった。
「きたああああああああああああああ!!」
「おおおおお!!これは凄い数じゃな!!」
「ボンビーさようならあああああ!!こんにちはリッチマーーーン!!」
「なんだその喜び方は…」
100人の生命体反応だ。
「ふむ。コチョウのあやつらがいるな。100人も連れてくるとはこれは英気や負感がたっぷりと得られそうじゃ!くーくっくっく!」
「シス様!この荷台に入っているのは食べ物では!?」
「ふぁああああああああ!!きたーーー!食べ物がきたぞーーー!!」
「マジか!!ってかなんでルーラーの俺は映像魔法がダンジョン内しか映せないんだよ…」
そして彼らはやってきた。
扉が開いた。
「いらっしゃい!!」
「らっしゃ~」
「シャーーーーー!」
無視無視。
「また来たわ、店長さん、カワイイ店員さん」
「待ってたよ。凄い数だな今回は」
ロビーは剣や斧、大盾など武装した兵士が数多く入ってきた。
しっかりと宣伝してくれたようだ。
「やほーーー!また来たよーー!」
「今回は念入りに準備をしてきましたので、前回のようにはいきませんぞ」
「あ、あの……こんにちは…」
「こんにちは、タンポポさん、ウメさん、レンゲさん」
金、金をよこせー食料をよこせーー。
「ツバキ先遣隊長、この者らがこの店の主人ですか?」
「そうよ。この人がダンジョン屋店長で、横の美少女さんが店員さん」
「オーナーじゃ!」
「副オーナーだ、殺され―」
慌ててベルゼの口を塞ぐ。
「(バカか、お前は。客にそんなけったいな言葉を使うんじゃない!)」
「(むーむー!)」
「オーナーさん達だったの!?ごめんなさい、てっきり店員かと」
「余のどこをどう見たら店員に見えるのじゃ、この無礼者が!」
シスの口を塞ぐ。
「し、失礼。ちょーーっとこのオーナー達、頭のネジが一本外れてて」
ロビー内の屈強な戦士達が一斉にこちらに視線を投げている。
「ゴホン!それで、どうしてこんな大勢で?」
「実は、私の国のコチョウにこの世のものとは思えない怪物が現れて、今危機的状況にあるの。そこで奴らに対処するため来たってわけ」
「なんとそんなことが…」
「ねーねー、あの怪物とこのダンジョンって何か関係あるの?偶然にしては出来過ぎてる感じなんだけど?」
タンポポが詰めてきた。
まあ、その憶測に辿り着くのは当然だ
「ないない。例えあったとしてどういうメリットがあるんだ?」
「うーん……それがわからないんだよね…」
「タンポポ、まあいいじゃない。早速挑戦したいわ。手続きをしてくれる?」
「了解。何人挑戦するんだい?」
「100人よ」
きたーーー!
一気に収益増!
「わかった。100人だとコチョウ銀貨で100枚だ。あと食料が必要だが」
ツバキが表に来てと誘う。
「ふぁああああああああああ!!すごい!すごい量の食料じゃあああ!」
「こ、こここれで毎日の食卓に鶏と魚以外の食材が並ぶ!!」
荷台一杯に載った食料をみて、魔族がはしゃぎだした。
「ねえ、店長……ここって食糧事情やばいの…?」
「………ちょ、ちょっと栄養バランスが偏っていて…」
積まれていた食材は日本でも見たことがある物ばかりだ。
野菜、果物、肉、小麦。
野菜や肉はご丁寧に氷で冷やされていた。
タンポポの氷魔法で保存してきたのだという。
肉は牛と豚で、ステーキに最適だ。
「ありがとう。では探索者登録をするから待っててくれ」
初めて挑むコチョウの戦士らを登録していく。
「さて、じゃあ何人で行く?ダンジョンゲートは5枚あるから分散して入れるぞ」
「100人で入れないの?一気に強くなりたいんだけど」
「100人一度に入ると、レベルはまず上がらないな。取得経験値が100等分されてしまう。オススメは6人くらいまでだが。あとダンジョンには1日1パーティしか挑戦できない。そうなると70人は明日以降となる」
「そうなんだ…でも1週間の滞在期間があるからいいかな。じゃあ6人ずつで行くわ」
ツバキは今日挑戦する人員を選抜していく。
「それじゃあ今日ダンジョンへ向かう皆に改めて言うわ。序盤のダンジョン攻略は3体の緑のモンスターが槍を構えて突き攻撃を―」
「あーツバキさん」
「ん?どうしたの?」
「実は5つのゲートはそれぞれ構造とモンスター配置が違うダンジョンへと繋がっているんだ。だから詳細な攻略は意味がない」
「えーーーーーーーーー!?じゃあ、この前私達が行ったダンジョンは!?」
「そこへはあの木のゲートしか行けない」
「そうなんだ…じゃあ、注意点だけ伝えるわ」
準備ができたようだ。
出発ルームへ通す。
「いってらっしゃい」
見送った後、ダンジョン内部の映像を出す。
6人パーティが5組。
見るのが疲れそうだ。
シスとベルゼはコーヒー片手に既に見入っている。
明日以降の挑戦となった70人は店舗から少し離れたところで野営を組んでいた。
まだ宿泊施設ができてないから仕方ない。
宿泊施設ができれば宿泊料も売上となる!
今回100人で100銀貨は日本円の生活水準と照らし合わせると10万円にもなる!
うますぎる!
一定のレベルに達した探索者は探索料も上がる仕組みだからこれから一層楽しみだ。
俺は掃除や食料保管作業をしながら、映像にちょいちょい目を向けていた。
初級ダンジョンは全24階層。
1から3階層は大体レベル1から3の難易度。
ただし、パーティプレイの目安だ。
ソロだとレベル3はきつい。
3階層までは石造りの基本的なダンジョンの内観。
モンスターはゴブリン、ミニコボルド、デビルコウモリ、キラーアント、ビッグスパイダー等が生息。
3階層毎にボスが待ち構えている。
ボスを倒すと、倒したパーティだけが次にダンジョンに挑む際に次の階層からスタートできる。
「よーーーーーーし!!また一人死におった!!グッドワークじゃ、あのコボルドは!」
「シス様!!あの角で震えている奴ももうすぐで死にますよ!!」
ロビーに誰もいなくてよかった。
こんなことを聞かれたら世界中を敵に回してしまう…。
「うーむ…やはりこのツバキのパーティは頭一つ抜けておるのお。今のところ危なげなしじゃ」
「さっさと死ねばいいものを。生意気な害虫共です」
確かにツバキ達は順調だ。
この前引き返したキラーアントの巣は避け、奥へと進んでいる。
着実に倒せる敵を倒し、経験値を稼いでいる。
俺にとっては一個でも多く戦利品を稼いできてほしいのだ。
ツバキ達大集団は一週間の滞在の後、帰国した。
その後は各国から利用者が訪れ、ダンジョン屋は日々盛況であった。
シスも徐々にこの星に魔法の概念が広がっていくことに満足気だ。
収益も凄い勢いで増えていってはいるが、俺はまたしても重大な問題に気づいた。
「…換金どうしようか…」
日本円に換金するには身分証明が必要であり、こんな大量に売却したら国税局からもいつか目をつけられることうけあいだ。
「くっ…やはり俺は貧乏のままなのか…?」
「なんとななるじゃろ。心配するでない、令司」
いつだってこの似非大魔王は楽観的だが、こういう存在は意外と生きる上で大事な気力を呼び起こしてくれる。
「ま、そうだな。これからもよろしく、シス」
「うむ!で、とりあえずご飯はまだかの?」
はいはい。
さて、今日も頑張りますか。
「いらっしゃい!」
くっちゃね大魔王とジリ貧の俺が綴るのんき生活~ダンジョンを添えて~ 日夜暁 @nichiya-akatsuki
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