第14話「本日は住居と浴場が完成し、食料を探しに行きます」
「俺はね、この世界の中心で愛じゃなく、貧困を叫びたい心境なんだよ」
「突然何を言い出すんだ、お前は。気でも触れたのか」
「ベルゼ、貧困は人の心を不安定にさせるものなんだ。と、いうことで今日も客は来なそうだから俺はヘイさんの所に行ってくる。店番よろしく」
「店長だと言うのに職場放棄とか、ダンジョン屋は果たして大丈夫なんじゃろうか…」
「令司ドン、住居が完成しましたデス」
「な、なんですとおおおお!!すばらしいではありませんかああ!これで俺はもう職場で雑魚寝する必要はないんですねえ!」
「へ…ヘイです…」
住居に急ぐ。
でかかった!
巨体の魔族が建てるんだから当然だが、でかかった!
実家の敷地面積が85平方メートル。
だがこの住居はそれ以上だった。
6LDKの木造。
個人的には狭い所が好きなんだが仕方ない。
玄関が6畳くらいあり、靴とか何足も入れられる収納棚完備。
「おお!住居ができたのじゃな!」
「おい、店番はどうした?」
問題児二人がどこからともなくゴキブリのようにやって来た。
「今日はもう店じまいじゃ!オーナーが決断したのじゃ!」
「勝手に店じまいするんじゃない。はぁ…人が結界内に入ってきたらわかるからいいか…」
玄関の隣はでかいトイレ。
「ほう。下民のお前が住むには贅沢な家だな」
「大体5回に1回くらいかな、お前が俺の名前をちゃんと言うのは。あと靴を脱げ。この家は土足厳禁なんだ」
もはや俺の4畳半は土足まみれとなっているが、ここではそうはさせん!
トイレの隣に二階への階段。
二階は5部屋ある。
一階はリビングと15畳の部屋。
リビングなんて40畳もある!
でも冬寒そう…。
この辺はヘイさんに相談だ。
15畳の部屋は将来和室にする。
畳を敷いて、上質なテーブルと座椅子を置いてまったりするのだ。
広縁スペースもあるぞ!
旅館のあのスペースを個人宅で作るのは夢だったんだ!
他に1階にはダイニングと一流レストランにあるような広いキッチンがある。
ガスはないからコンロ部分はかまどで不便だが、かまどは複数あって火加減に合わせた調理ができるから満足だ。
換気は十分考えた作りだから一酸化炭素中毒も心配ない。
そもそも調理スペースがこれだけ広いのは嬉しい。
シンクも広い。
シンクや調理台は魔界の素材だから腐食もないし、熱耐久度もすごい。
環境を考えてあまり洗剤は使わないようにしてる。
食器をシンクに置き、熱湯をシンクで貯めておけば大体の汚れがとれる。
洗剤は頑固な汚れがついた時に少量だけ使うようにしよう。
キッチンから地下に降りれる。
食材の保管庫だ。
「今日の夜から飯はこのダイニングで摂るからな」
「うむ。しかし大きな家具ばかりで味気ないの。装飾はこれで終わりなのか?」
「そういうのは金が入った時に揃える」
家にはテーブル、タンス、洋式のイス、ベッドの家具がある。
いずれも魔界の家具職人が製作したものだ。
まだ不足しているものがたくさんある。
フローリング材や壁紙、ソファー、カーペット等枚挙に暇がない。
特に床と壁は木材そのものだから、処置しないと。
まさかDIYするとはなあ。
「令司ドン、第一風呂も完成しましたデス」
「ええええ!!すごいですねヘイさん!これで俺はもう湖の冷たい水で体を洗わなくてもいいんですね!?」
「へ…ヘイです…」
「お風呂できたのか!?」
「お風呂だーーー!!やったーーー!」
どんだけ嬉しいんだ。
俺がデザインした風呂場だ。
引き戸を開けると、玄関があり、靴を脱いで靴箱にしまう。
そして更衣室だ。
あー木のいい香りがする…。
「ちょ、ちょっと待つのじゃ!」
「なんだよ?」
「な、なななんで男と女の脱衣所が一緒なんじゃ!!」
「そうだ変態!銭湯には女専用脱衣所があるんだぞ!」
「俺達しかいないんだからそんな必要はない。それにほら、脱衣所の前に札があるだろ?入る時はこの札を裏返して『入浴中』としておけばいい。それなら男女が鉢合わせにならない」
「う…ま、まあそうじゃが…」
「な、なんかヤだな…」
「贅沢言うな。今後の拡張に期待してくれ」
脱衣所には鏡、椅子、卓、トイレも完備。
脱衣所から引き戸を開けると、広い洗い場と2つの大きな浴槽がある。
床は魔界の滑りにくく光沢のある石が綺麗に張られていて、タイルよりも高級感がある。
風呂場は浴槽も含めて全て石造り。
42度と45度のお湯を入れる予定だ。
「おーーーー!!なかなかのお風呂ではないか!!でかしたぞ令司!!」
「う、うん、なかなかいいな!これで毎日入れる!」
「令司、泡風呂とシャワーがないぞ?」
「そんな高度な技術作れるわけないだろう。ヘイさんだって風呂場を作るのは初めてだったのに。銭湯と同じにするには地球の技術を持ってこないといけないし、そこは我慢してくれ。それよりも他の種類の風呂も建設する予定だからそっちを楽しみにしていてくれ」
「ほう!!他の種類の風呂だと!?令司、それはどんなやつだ!?」
「露天風呂、檜風呂、サウナだ」
「よ、よ、よし!!すぐに作るんだ!!魔王ベルゼが命ずる!!」
「はいはい……」
この風呂場は現時点で50坪程ある。
3人で50坪とか贅沢も甚だしいな。
それに大変なのはお湯の確保だ。
この、湯治の悦びを知ってしまった魔族は絶対に毎日入るだろ?
そうなると日々火を熾して湯加減調節しなければならない。
あと、やっぱり湖の水をそのまま使うわけにはいかないから、ヘイさんと俺で巨大な濾過槽を作り、その水を使っているわけだ。
濾過は3重の砂と砂利の基本的な作り。
炭はまだ作っていない。
浴場の掃除だってある。
こいつらは掃除なんてまずしない。
頭痛い……。
仕事に家事全部。
現在無収入。
あっ、俺って人間社会だけでなく、この異世界でも底辺だったのかー。
昼飯を食べながら俺は言う。
「もう食料がほとんどありません。よって食料探しに行きます」
「な、なんじゃとおおお!?なんとかするのじゃ、令司!!」
「な、なんと!それは歴史上最もやばい事態ではないか!」
歴史上はあれだけど、まあ俺の命が危ないな。
「俺は人間だから、いつまでも鶏と魚ってわけにもいかないんだ。米ももうあと2日分しかないし、小麦粉だって僅かだ。野菜果物が圧倒的に足りてない。お前らもついて来てくれ」
森へと入る。
何か食せるものはないか血眼になって上下左右を注視していく。
…………
わからない。
異世界だから、鶏や鱒といった地球と同じ生物がいるんだから何かあるだろうと期待したが、徒労に終わった。
「余はこんな森の雑草など食べたくないのじゃ」
安心しろ。
なーーんにも見つからなかったから!
次に湖から流れる川へ向かった。
川幅は8メートルくらいで、水深は深浅様々で水質は澄んでいる。
釣りしたいな。
今度釣り竿を買ってやってみよう。
「シス、何かやばそうな生物がいないかサーチしてくれ」
「うむ。…………いないな。小魚や長い魚、キラークラブの小さい生物くらいじゃ」
「キラークラブってカニじゃないか?ちょっと掬ってみてくれ」
「なんじゃ、美味なのか?ほれ」
魔法で掬い上げた水球にカニが見えた。
「こ、こいつはモクズガニだな!」
「む、お前のその声色、美味しいとみた!」
「食べれるけど、調理法によるかな。味噌がうまい」
「よ、よし!!捕まえるんだ!」
「シス、その長い魚も見せてくれ」
それはあの高級食材、鰻だった!!
養殖の黒色ではなく、緑がかった茶色は間違いなくうまい!
これを一度食卓に出してしまったらこいつらの味覚進化速度が更に上がってしまう。
「なるほど。ありがとうシス」
リリースする。
「あんな気持ち悪いくねくねした魚なぞ絶対まずいな!」
「ええ。あれは食べ物の体をなしていませんね」
鰻はこの魔族らになめられない武器となる。
今は我慢しておこう。
総括。
「まずいぞー。まっっったく食材がない!いや、鶏と魚はいるんだけど、でも栄養バランス的にはまずい!」
「栄養バランス?それが何かよくわからんが、好きなものを好きなだけ食べればいいじゃろ?」
「そういう退廃的な食生活を送れるほど俺は若くないんだ。お前達は体の構造が人と異なるからいいかもしれないが、人間はしっかりと野菜肉魚穀物を食べないと健康を害するんだよ」
「令司は年寄りみたいなことを言うのお。まあしかし、もういい加減鶏と鱒という魚は食い飽きたのじゃ」
「ええ。魔族の長たるもの多様の料理を日々楽しまなくてなりませんね。令司!お前は努力が足りない!もっとシス様と私に貢献しろ!」
いつかまた泣かせてやる!
「おい令司。食料問題というが、そんなもの5カ国に行って盗ってこればいいじゃろ」
「『盗ってこい』の漢字が違う。魔族として正解なんだろうが、俺は人間だ。盗みとかできるはずないだろ?」
そうだ。
足りないなら人から集めればいいんだ。
ダンジョン屋を積極的に宣伝していこう。
「シス、ナイスだ。お前のおかげでいい案が浮かんだよ」
「おおお!そうか!余は天才じゃからな!!今日はご馳走を用意せい!」
俺は紙に宣伝文を書き、コンビニでコピーをとる。
「ベルゼ、この宣伝ビラをコチョウ、ネーマ、プーグレの3国に貼ったり配ったりしてくれ。おっと、断ったらどうなるかわかるな?」
「くっ!わかった…配下にやらせてくる…」
ビラに書いていることを要約するとこうなる。
ダンジョン屋探索料にはお金と食料が必要だと。
特に野菜、果物、肉を求めている。
「なぜクシャーやベルーサには配らないんじゃ?」
「日本人として気にくわない国だからだ。どうも仲良くなれそうにない」
「……ダンジョン屋は中立なんじゃがなあ……」
◆◇コチョウ国戦士ツバキ視点◆◇
勝てない。
レベル2じゃどう足掻いても力の差は歴然だった。
でもなぜかわからないけど、化物達はある程度城壁近辺を破壊した後は、遠くへ去っていった。
とりあえずは危機は去った形となった。
大勢のコチョウの兵士達がいる中で、ダンジョンに挑戦した私達の戦いぶりは瞬く間に首都全体に広まった。
結果、コチョウの元首サクラ様に知るところとなり、招請された。
そして今は王城の前にいる。
「あの謎の怪物らが去っていってよかったですな、ツバキ殿」
「そうね、ウメ。でもまた襲撃して来そうだけど…」
「あの…これからコチョウはどうなるんでしょう…」
「どうって…国内には怪物、国外には帝国と無法国家。これ以上の戦いが勃発すると思うわ…」
「そんな……なんとかならないんでしょうか…」
「うーん……やっぱりダンジョンにまた行って戦力を上げ―」
「ねーねー!これ何だろ!?」
タンポポが城門前に落ちていたビラを拾って言った。
「あーーー!!これってあのダンジョン屋の宣伝ビラだーー!」
「なんですって!?」
タンポポの手から思わず奪い取る。
紛うことなきあのダンジョン屋のものだった。
「これはこれは…このコチョウに従業員が来ていたのでしょうか…」
「書いてることが相変わらず胡散臭いわね。それに探索料に食料が追加されてるし…なに?食糧難なの、あそこは?」
元首謁見の間
「そう畏まらずに、皆さん」
歴代最長の在任期間を誇るコチョウ国家元首サクラ。
妖精族であり、頭脳明晰、知略縦横であるこの御方によりコチョウはこの戦乱の世で未だ大きな混乱はなく成り立っている。
「皆さんの活躍は既に聞き及んでいます。信じられない程の早さと技、そして火と氷を手から発する魔法という存在。なぜそのような力を得ることができたのかお話頂けませんか?」
私は全てを話した。
それが国のためになるのだから。
「そんなことが……にわかには信じ難いことですが、今この目で見せて頂いたことですし、事実なのでしょう」
「はい。そしてこれがそのダンジョン屋です」
ビラを渡す。
「……………食料?え?」
「あの、冗談のように見えるでしょうが、それは本当にダンジョン屋の宣伝ビラなのです…」
あの店長は何を考えているんだろう。
「わかりました…。これは貴重な戦力となります。早速同盟国とも話をしなければなりません。ついては先遣隊を選抜し、ダンジョン屋に向かって頂きます。皆さんも同行をお願いします」
「承知致しました!」
「あと……食料は大量に一応…持っていきましょうか…」
ビラには『特に野菜、果実、うまい肉!』と強く記載されていた。
これ、本当にあのダンジョン屋のビラでいいんだよね?
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