第13話「本日は世界情勢が変わったのでまた対策を練ります」

 世界に魔族が現れた。

 人は殺さないけど、それなりの破壊行為に及ぶらしい。

 そこで、このダンジョン屋に人が大勢押し寄せてくるという。


「うん。でも今日も客は一人もこないね?」


「ふぁああ…何度見てもこのババロアという料理は不思議な魅力を醸し出してくるのお」


「シス様、このアラビアータというパスタもいいですよ!真っ赤ですよ!」


 相変わらず二人は制服姿でカウンターに料理本を広げて読んでるし。


 俺はペン回しをしながら、今後起こり得る状況を想定する。

 世界は5カ国あり、構図で現すと3vs1vs1となる。

 で、各国の人間がこの中央地帯に集まるとどうなるか。


 はーん!

 ここで戦いが起きるじゃねえか!

 人が集まるのはいいよ?

 でもこんな場所で店を構えるとかやっぱ納得いかないよなあ。


 そうだ!

 出禁制度を設けよう。

 ルーラー管理者は探索者間の戦いを制限する魔法を使える。

 ダンジョンゲートから一定範囲に効果があり、戦いを仕掛けた者は範囲外に飛ばされる。

 そして仕掛けた者が探索者だった場合は俺にちゃんと感知できる優れものだ。

 ダンジョン屋領内で戦闘を仕掛けた人間には罰則を設ける。

 酷いと判断した場合は、その国の人間のダンジョン探索権利を剥奪とする。


 これでまあ少しは抑制されるだろう。

 看板にも記載しておこう。

 それ以外の場所での戦闘?

 そこまでは面倒見きれないぞ。


「ああああああああ!!」


「な、なななんじゃ!?どうしたのじゃ令司!?」


「遂に頭がイカれてしまったか?」


「いやいや、シス、ダンジョンって1日1パーティしか入れないよな?それなのに人が殺到したらどうするんだよ?何日も外で待ってもらわないといけないんだぞ?」


「あ、そうか」


「あ、そうか、じゃねえよ。どんだけVIPな娯楽施設なんだよ。これじゃあ金銀財宝なんて稼げないぞー」


「…金銀財宝は置いておくとして、余もうっかりしていたわい。ゲートを増やすとするか」


「え?そんなことできるの?俺、できないんですが?ルーラーなんだけどできないんですが?」


「これは絶大な魔力を有する余くらいしかできん。どれ、どこにいくつ出すかの―」


「(シス様、ここでホイホイと簡単に出してしまえば、あのゴミネズミの永続的な平伏計画に支障をきたす恐れがあります)」


「た、たしかに!流石はベルゼじゃ!今度余の唐揚げを1つあげようぞ!」


 なにかくだらないことを話しているな、コイツら。

 しかも褒美が唐揚げ1つとかみみっちいし、それ俺が作るんだけどー?


「ゲートかあ…こりゃ出発ルームも拡張しないといけないな…で、いくつ出せるんだ?」


「初級、中級、上級で各最大10じゃ」


「1日10パーティか。まあいいか。中級以降のダンジョンなんてこの難易度じゃ当分先だろうしな」

 出発ルーム内に10枚出すスペースはないから、5枚でいいか。


「じゃあ、ここにゲート4枚出してくれ」


「跪け」


 ベルゼめ、余計なことを吹き込みやがったな…?


「跪いて余に乞うのじゃ。よもや断るつもりじゃあるまいな?ゲートが増えず、お前の懐は潤わないぞ、んー?」


 くうううううコイツうううう!!

 毎度毎度調子に乗りやがってええ!


 い、いやしかし…ここで俺が反撃に転ずれば、ゲートが増えず、利益も出ない!

 お、俺は底辺社畜だったんだ!

 土下座なんて屁でもないわ!


「ど、どうかゲートをお出しください、シス様」


「んっふぁああああああ!!なぜじゃ!!なぜお前に頭を下げられるとこんなに歓天喜地となるのじゃ!あーーーはっはっはっ!よかろう!ゲートを出そうではないか!」


「流石はシス様!!この低知能人間の教育は順調ですね!!」


 ベルゼめ!

 もうずっと俺の名前を呼びすらしていねえな!

 た、耐えろ…俺は大人なんだ。

 利益のためなら頭を下げるのなんて当たり前だあああ!

 気持ちを切り替えて次に進もう。



 夜。


「そうだ、今日はスーパー銭湯ってところに行ってみるか?」


「スーパー銭湯!?なんじゃそれは!察するに銭湯よりもスーパーな銭湯ってことじゃな!?」


「そのまんまだな」


「汚物としてはなかなかの提案だな!きっとものすごい銭湯なのだろう!連れていくがいい!」


 黒い霧をくぐり、自分の部屋に。

 干していた自分のタオルとバスタオルを手に取る。

 あれ?まだ乾いてないのか?

 しばらく俺は銭湯に行ってなかったんだが…。


「ん?財布はどこだ?」


「財布はここに置いているぞ」


 なんでそんなところに。


「スーパー銭湯♪スパ銭湯♪」


 シスはルンルン気分で口ずさんでいる。

 スパと銭湯は似た意味だな。



「これがスーパー銭湯だ!どうだー!」


「ふぁああああああああああ!!でかい!!おっきいのじゃあああ!」


「こ、こここれはすごい!!類人猿もやるではないか!このような大きさならさぞたくさんの湯船があるに違いない!」


「当然だ。露天風呂にサウナ、電気風呂というのもある」


「そ、それがなにかはわからないが、とにかくすごそうだ!早く行くぞ、下等生物!」


 店内に入る。

 平日の夜だが客は多い。


「人も大勢おるぞ!!それだけすごい銭湯ということじゃな!」


「これだけの下等生物に裸体を見られるのは不愉快だが、そこは目を瞑ろう!」


 周囲の人たちがなんだなんだとこちらを見てくる。

 田舎者丸出しだよ。


 さて、券売機と。


「一人680円か―って、あれ?あれ?」


「ん?どうしたのじゃ令司。早くお金を払うがよい」


「いや、なんで財布に1000円しか入ってないんだ?おかしいな…1万は入っていたはずなんだが……」


 はっ!

 待てよ!?

 乾いてない俺のタオル、財布の置き場所…まさか!


「おいシス、ベルゼ。お前らもしかして俺の財布で勝手に銭湯通いしてないか?」


「余は大魔王じゃ。下僕の財は余の財。どう使おうが自由じゃな」


「そうだクソ猿。シス様と私はもう毎日汗を流さなければいられない体なんだ。足りなければ稼いでこい」


「お前ええええブッとばすぞーー!?断りもなく毎日通ってやがったのかよ!?しかもこの減り方!絶対風呂上がりに飲み食いしただろおおお!?」


「ふ、風呂上がりの牛乳3種類完飲は当然じゃ!!」


「んなっ!!あっ!しかもなんだよその見たこともないシャンプーと専用の桶は!?ずっと銭湯備え付けのシャンプーと桶だったじゃねえか!買いやがったなーー!!」


「買って何が悪い!?魔王たるもの、身だしなみに気を使うことの何が悪い!?」


 ダメだ、コイツら。

 うん、今まで我慢して頭を下げてたけど、今回ばかりは許さん!


「アホかああああ!今後の生活どうするんだよ!?金がないと食料品も買えず、お前らの下品な胃袋を満足させることができないのがなーーーぜわからん、あぁーーん!?これからどうなるかわかるか、大魔王モドキとフンバエ!?」


「ふぁああああああああああ!!」


「ふ、ふふふふフンバエええ!?」


「餓死だよ、餓死!今まで当たり前のように作っていた料理が虫と雑草中心になるんだ!もう俺はお前らを養えねえわー!これからお前らはまたワーム中心の食生活なー!どうすることもできませんわーー!じゃあなーーもう会うことはないからーー!さ・よ・う・な・ら、穀潰し共がああ!」


「うわああああああ!!やだーーーだーーもうワームはヤなのーーー!!」


「わわわわわああああああ!!なんとかしろおおおお!!」


 二人が突進してしがみついてきた。


「やだじゃねえええ!!こんな金遣いが荒い生活が続くわけないだろうが!!もう俺はお前らと今生の別れだからー!」


「いやあああああああ!!ごめんなさいいい!!ごめんなさいいい!!だって銭湯きもちいいんだもおおおん!!」


「なんとかしろおおおおお!なんとかしろおおおおお!」


「なんとかなるわけねえだろ、このコエダメバエが!!お前なんてそこらのフンにたかってればいいんだよ!フンにも栄養は少しはあるんだからなあああ!!」


「きゃああああ!!いっちゃいけないこと言ったなあああ!二回も言っちゃいけないこと言ったなああああああ!!」


「痛い痛い!!角を出すな!!そして何気に攻撃してくるんじゃねえよ!絶対許さねえわ!金の恨みは恐ろしいんだ!!くそ!離せ!離せ!みんな見てるじゃねえか!」


「あああああああん!!ごめんなさいいい!!もうお金勝手に使わないからあああ!!ごめんなさいいい!!」


「だああああ!くそ!!なんて力だ!!わかったわかったから!シスは許すから!!」


「なんでシス様だけなんだああああああ!!私もだろおおおおおお!」


「お前は謝ってないじゃねえか!!調子いいんだよ!!最近は俺の名前ずっと呼ばなくなったじゃねええか!!そんな無礼な奴にどうして許さないといけないんだ!?許してほしければ、これからも料理を作ってほしければ謝れ!!膝をついて土下座しろ!じゃなければ絶対に許さん!!」


「わあああああああ!!だって!!だってえええええ!!」


「だってもヘチマもねええ!おいシス!部下の躾けは上司の責任だ!お前も土下座しろ!」


「ふぁあああああああああ!!」


「土下座もできないのなら、今度こそ本当にバイバイ!!」


「ごめんなさいいい!!土下座するからあああ!!土下座するからああ!ベルゼ土下座!土下座して令司に許しを乞うのじゃあああ!!」


「ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆゆゆ」


「ゆ、しか言ってねえよ。どんだけ湯に入りたいんだよ。そうじゃねえ。ちゃんと謝罪しろ」


「ゆ、ゆゆゆゆゆ許せ……」


「0点。敬語が足りない」


「なあああ……ゆ、ゆゆゆゆゆ許せ……ください……」


「なんだよ、許せくださいって。どこかの掲示板の見すぎだわ。まあ、いい。ほらシスもだ」


「ゆ、許して……くだ…………………さ…………い」


「ください、が長いわ!はぁ、いいか!この財布は俺のだ!金は俺が管理するものだ!お前らは自分の置かれている立場をもっとよーーーく理解しろ!わかったら返事だ!」


「「は、はは、はい……」」


「嫌々な返事がハモるとか、どんだけだよ」


 俺の周りに人だかりがでてきしまっている。


「あ、あの男、あんなカワイイ子に土下座させてやがる……」

「うわあ……女の子かわいそう……あんな角のコスプレされて更に怒鳴られて土下座させられるなんて…クズじゃない…」

(ヒソヒソ……)


 だあああああ!!なんでこうなるんだよ!


「今日は金ないから無理!早く帰るぞ!」



 外に出て帰路に着く。


「ひぐっえぐっひぐっ……ひぐっ」


「う…う…う…う…悪魔だ…悪魔がいる……」


 魔族が言うな。

 仮にも美少女である2人を泣かせながら歩かせている光景は客観的に見てもいい状況とは言えない。


「おいーもう泣き止めよ。仕方ないだろ。金がないんだから」


「だって…だって…スーパー銭湯が……」


「いいか、金がないからダンジョン屋で大儲けするんじゃないか。そうじゃないと本当に路頭に迷うことになるんだ。だからこれからは銭湯もしばらく禁止だ」


「いやああああああ!おねがいしますううう!それだけはああ!!」


「もう勝手にしないからあああ!銭湯入らせてえええ!!」


 魔王の威厳もへったくれもないな!


「落ち着け。だから今銭湯を作ってるんだ。もう少しで第一浴場が出来上がるからそれまでは我慢してくれ」


「ほんとか!?」


「ああ。そもそも作らないと破産するからな。だからお前達もちゃんと店業務を手伝うこと」


「わかったのじゃ!」

「わ、わかった!」


「よし。それじゃあジュースをご馳走してやろう。何がいい?」


「ジュースとはなんじゃ?」


「甘い飲み物だよ。この自動販売機から出てくるんだ。どれがいい?」


「甘いのか!!えーとえーとこれがなんか美味しそうじゃ!」


「私はえーとえーと、これなんてよさそうだな!」


 はいはい。

 ビッグメイドオレンジとファンタスティックオレンジね。


「くはあああああ!あまーーーーい!なんじゃこれは!!こんな飲み物があったとは!!」


「きゃっ!!いたい!あれ?おいしいいいい!!なんだこれは、口がぴりっとしながらもそれがクセになって、甘さとすごいマッチするぞ!!」


 炭酸にそこまで感動してくれると、製造者も喜びそうだな。

 二人は交換し合いながら美味しそうに飲んでいた。


 持ち金は数百円。

 よくよく考えたらさ、向こうの1日はこっちの1時間ということはだよ?

 地球での24時間の内に、食料が24日分必要ってことだよ。

 食費すごいよねええ!

 これはもう食料自給率を上げていかないと死ぬね!

 異世界生活って不便極まりないな。

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