第12話「本日は各国に魔族が出現しました」
朝10時、開店。
「うん。客は来ないな。まあ、朝だし、これから来るよー」
おや?
シスとベルゼは表で何やってるんだ?
「ベルゼよ。時は満ちた。準備はよいか?」
「はい、シス様。化身魔法はいつでも発動できます」
化身魔法?
何をするんだ?
「あーはっはっは!これでこの世界は魔族と人間の戦いがこの時より数千数万年の間巻き起こる!人間の恐怖、憎悪、嫉妬、全ての負感を余ら魔族は味わうことになるのじゃ!さあ、愚劣で脆弱な人間世界に魔族を顕現しようぞ!余は大魔王シス、さあ魔族共よ!この世界に顕現し、暴虐非道の限りを尽くすのじゃああ―」
「でえええええい!!何をやってるんだあああ!!」
俺はシスの頭をビシーッと叩く。
魔族を出現させようとするとは!
やはりこいつは信用ならなかった!
「な、なな何をするのじゃお前は!!今から余は魔族を世界に出現させようとしたところじゃったのに!!」
「それだよ!それえ!!なーにが魔族と人は共存するだ!!大嘘じゃねえか!!そんなこったろうと思ったよ!騙されるところだったわ!!魔族をこの世界に召喚して、世界征服することがお前らの本来の目的だったわけだ!ダンジョン!?結局魔族が弱者をいたぶって楽しむ娯楽施設だったってことだろーが!俺は辞めるからな!悪人ならまだしも善人を殺すことに加担するのはマッピラゴメンだ!!じゃあなーーー!」
「待て待て待て待てーー!違う違う!お前は誤解しておる!ベルゼ、令司を取り押さえろ!」
「はっ!」
「はぁああああ!?なーにが誤解だ!じゃあなんだっていうんだよ!?」
「はぁ…よいか?魔族と人間は共存の間柄だと前に言ったな?魔族の存在の意義はバランサーなんじゃ」
「バランサー?」
「そうじゃ。まあ落ち着け。魔族は世界の調律者、いわばバランサー。人族同士の醜悪な争いが原因であやつら自身が絶滅しないよう、必要悪として魔族が介入し、戦いの矛先を魔族に向けさせ、世界を均衡させる存在なのじゃ。この世界は5カ国が争い続けて随分になる。このままでは人類は滅んでしまうからこそ、余がやってきたのじゃ」
「な……いやいやいや、だまされないぞ?でも結局は必要悪ということで人を殺すんだろ?同じことじゃねえか」
「人を殺めるつもりなどない。これから呼ぶ魔族は化身なんじゃ。実体はなく、あくまで人間を混乱に陥れるだけ。建物や物は壊すがな。人間の兵士が攻撃しても怪我をさせる程度じゃ。目的は人間同士の戦争を魔族との戦争に転換すること。そしてその状況を継続するには魔族には瘴気を浴びた人間が必要で、ダンジョンが存在しているというわけじゃ」
耳がピクリとも動いていない。
本当の話のようだ。
「俺が知っている魔族じゃないな…魔族って人を殺して食う悪しき存在として知られているんだ」
「ああ、それは天族が魔族という悪をより高めるための作り話が流布しただけじゃ。天族は生命を創造し、魔族は破壊と均衡の役割を担う。天族などどうしようもないぞ?創ったらあとは放置プレイじゃからな。だからこの世界のように人間同士が好き勝手に争い出す。そして魔族がそれを執り成す。それが世の理なのじゃ」
「まじか…地球もそんな歴史があったんだな…」
「そういうことじゃ。そして今からしようとしたことは魔族の化身を各国の隣接地域に顕現させること。前にお前が言ったな?こんな場所にダンジョンを作ってどうするのかって?それはな、魔族が出現することで、普通の人間の力では対処できなくなる。だが、昨日帰っていった人間の力を見て他の民草はどう思うじゃろう?ダンジョンに行ったらあんな力が身につき、突然現れた魔族と戦える、とな。そうなるとこの先ダンジョンはものすごい数の人間が訪れようぞ?そうなった時、この中央地帯はロケーションとして最適なんじゃ。幸いにも聖魔の大樹があったのは何か意味があるのかもしれんがな」
「お、お前……ただ食って寝るだけのやつじゃなかったんだな」
「誰が食って寝るだけじゃ!!余は大魔王じゃ!ちゃんと先を考えているんじゃ!理解したのならそこをのいてろ。これから世界を驚かせるのじゃからな。あーっはっはっは!」
ああは言っても、人を苦しませることは本能なんだろうな。
よかった。
どうやら魔族というのは以外といい存在のようだ。
俺は離れた。
シスとベルゼの体から黒紫の瘴気が舞い上がる
それは竜巻のように渦巻き、上空へと吹き荒ぶ。
「顕現せよ!魔族の化身!カタストロフィビギニングス!!」
瘴気が5方向へ拡散していった。
◆◇商人国家ネーマ組合長ネカ視点◆◇
「なんとかして帝国との交易を始めたいところだが、あの戦闘狂どもは一向にして話を聞かん。帝国とのパイプが築ければ私の組合は安泰なんだがなあ」
「ネカ社長!大変です!国内の至る所で見たこともない化物が突然出現!町を襲撃し、破壊行為を!」
……?
この部下は何を言っているんだ?
「おいおい、おまえは何を言っているんだ?化物が襲撃?そんな小説のようなことが起きるわけないだろう。疲れているのか?休みを取れ」
「いえいえいえ!いたって真面目ですよ!窓の外を見てください!」
どれどれ…
ほえっ!?
「な、なんじゃあの空を飛んでる翼の大きなトカゲは…?」
「それが化物ですよ!早く対応しなければ我が国は滅びます!」
くわああああああああああ!!
◆◇ならずもの国家ベルーサ統制者ラティノ視点◆◇
足りねえ!
強奪物資も、奴隷も、何もかもが足りねえ!
もっと襲え!もっと奪え!もっと攫え!
それがベルーサの本懐だ!
「こんなんじゃ今月のノルマが達成できねえだろ、しっかりやれや!」
「「「「はい!!」」」」
俺は側近に怒鳴り散らす。
もっと追い込まねえとな。
突如ものすごい音が外からした。
建物が崩れるような音だ
「何が起こった!?」
外に出ると、少し離れたところの城壁が崩壊していた。
そして俺はとんでもねえものを見た。
「なんだあの怪物はあああああ!!??」
城壁を守っていた衛兵が逃げ回っている。
牛のような顔と体躯の化物や全身岩の塊のような物質が城壁をこれでもかと言わんばかりに破壊している。
「や、やめろおおおおおお!!」
◆◇王国プーグレ国王ロメン視点◆◇
帝国クシャーと無法国家ベルーサとの戦いが勃発してもう500年。
一時も気を許さない日などない。
あーあ、こんなことがしたくて国王になったわけじゃないんだよねえ。
父は早々に「もう疲れたからあとよろしく!」って言って僕に王位を継承しちゃうし。
その父は今では遊び人。
どうしようもないよ、こりゃ。
僕も早々に退位して残りの人生を面白おかしく過ごしたい。
でも娘はまだ5歳。
王となる男はまだ生まれてない。
僕しかいないじゃん!?
世界一ツいてない人間だと思うんだよね。
あ、また大臣が来るよ。
走ってくる音からして、また厄介事だよ、こりゃ。
適当にやろうっと。
「ロメン国王!至急対応いただきたい事態が発生いたしましたーー!」
「はいはい。次は何かな?また帝国が中央地帯に兵を派遣させたのかな?」
「そそ、そんなことは可愛いものですよ!」
え?なにそれ?
それよりも一大事ってこと?
うわああ、死にたい。
「我がプーグレ領土の至る所に異形の怪物が出現し、建物を破壊し続けています!!即刻対処しなければ国は滅びてしまいます!」
あ、これは夢なんだ。
よかった、まだ夜中だったんだな。
◆◇帝国クシャー皇帝カフ視点◆◇
「一向に中央地帯の征服が終わらないんだけどー?どうなってるのかなー?」
「も、申し訳ございません…」
「謝るだけならさー猿にだってできるわけー。もう全軍中央に展開すればいいんじゃないかなー」
「そ、それをしてしまうと、未だ抵抗を続ける北諸国と忠誠心の怪しい属領がここぞとばかりに反撃と反乱が…」
「ふーんふーん。それならそいつら殺しちゃおーよー」
「そ、それをしてしまうと、平民からの激しいデモが…」
「あんたクビ。じゃーねー」
衛兵が無能執政官を連れ出していった。
アタシは部屋に戻る。
女帝として君臨し10年。
アタシの代で中央を支配し、各国を占領し、名帝として歴史に名を残す計画が全然進まないの。
爽やかな空気を吸うためバルコニーに出る。
ん?なにか城下町がうるさいわね。
愚民が騒いでいるのかしら。
眼下を見やる。
「ん?んーーーーーーーーーーーーーーー??」
◆◇民主国家コチョウ元首サクラ視点◆◇
ネーマ国とプーグレ国の三国会議はもうすぐです。
帝国クシャーとベルーサへの今後の対応案をまとめなければいけません。
同盟国内の戦力一位はプーグレ。
この国の機嫌を損なってしまえば、大変です。
ネーマは経済と発展の国。
情報員によればネーマは帝国へコンタクトをとるために画策している最中だといいます。
もし帝国とのパイプができてしまえば、わたし達を裏切る可能性だってある。
なんとかこれまで以上により深い関係を築かなければ。
「どこかに救世主はいないのでしょうか…」
わたしはそうポツリと呟く。
かっこよくて、白馬に乗って颯爽とわたしの前に現れるの。
そしてこう言うの。
『サクラ様。私がこの戦乱の世を平定して参りましょう。そしてそれを成し遂げた暁には、私と結婚してください!』
って。
「キャ~~~~~~!結婚だなんて!キャ~~~~~~!」
はぁ、はぁ、いけませんいけません。
ちょっと妄想が過ぎましたね。
妄想は執務が終わった後に存分にしましょう。
「サクラ様ーー!!大変です!領土内に馬に乗った―」
「救世主様ですか!?きたーーー!」
「へ?ち、違います!馬に乗った首のない鎧の化物や空を飛ぶトカゲが出現し、破壊行為に及んでいます!その数数千!」
なるほど。
救世主様はそんな派手な演出でやってきたのですか。
◆◇コチョウ国戦士ツバキ視点◆◇
この力は凄い!
祖国に帰る道中にベルーサの略奪戦闘員10人と遭遇したが、たやすく撃退することができた。
10人なんて誰かが瀕死の重傷を負う結果になるのに、無傷で勝利なんてあのダンジョンはとんでもない!
あのダンジョンは世界を平和に変えるところ。
早速戦士長と元首サクラ様に報告をしなければ。
「あ!首都が見えてきたよー!ツバキん!」
「やっとね―って、えええええええええええええ!?」
なんなのあの空飛ぶトカゲは!?
なんなのあの首のない戦士と馬は!
モンスターってやつうう!?
「………あの、コチョウは滅びるんですか……?」
「あれってモンスターってやつじゃないの!?やばいじゃん!早くなんとかしよーよ!」
「まずいですな。もしあれがモンスターなら、まだ私達にはどうすることもできませんぞ。いえ、それ以上にモンスターだとしたら、あのダンジョン屋が関与している可能性も」
「そ、そんなことないでしょ!?いや、関係しているのかな??あああもううわかんない!わかんないけど、なんとかしないと!行くわよみんな!!」
死んでも……生き返るよね…?
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