第4話「本日はダンジョンに初のお客様が挑みました」

◆◇ツキネ(ベルーサ4人のボブ女)視点◆◇


「扉が開かない以上前に進むしか無い」


 アタシは提案する。


 オラインの単細胞があんな怪しい看板に釣られなければこんなことにはならなかった。


 オラインが奥に続く扉を蹴破った。


「あのヤロウ八つ裂きにしてやる!」


「まーまー落ち着いてオライン。出たら殺ればいいんだから」


 ウコッカがいてくれてよかった。

 このハーフリングの女は獣人であるオラインをよくなだめている。


 扉からは石造りの通路に繋がっていた。

 高さ4.5メートル、横幅4メートルくらいだろうか。

 石壁には一定間隔で明かりが灯ったランタンが掛けられている。


「あんな扉からこんな奥行きのある場所に繋がってるって不思議だねー」


「そんなことはどうでもいい。俺様は早く帰りたいんだ」


 妖精のカルラスが不快感を示した。


 アタシだって同じだ。

 ダンジョンとかモンスターとか意味がわからない。


 あのダサイ格好をした男がアタシ達を罠にはめようとしている可能性だってあるんだ。


 20メートル程進んだ時に、先頭のウコッカが足を止める。


「何かあった?」


「なんか先の方から足音が聞こえる」


「モンスターとかいう奴か?」


 オラインが前に出た。


 戦闘に関して言えば、コイツに敵う人間はほとんどいない。

 2.7メートルの巨躯から繰り出される剣撃と腕力でアタシ達は多くの敵を葬ってきた。


「「「グギャギャギャギギギ!」」」


「な、なんだありゃあ!?」


 え!?


 見たことのない生物が槍を構えて三匹横並びで突撃してきた。


 鼻が長く伸びたひどく醜い容貌。

 体は鶯色で革の装備を身に着けている。


「なんなのーあいつら!」


「知らん!全員戦闘態勢!槍突きがくるゾ!」


 各自武器を抜く。


 緑のモンスターが勢い良くオラインに向かって槍を突き出した。


「ちょこざいナ!」


 オラインが長剣で薙ぎ払う体制をとった。

 だが、巨躯から伸びた腕は通路では長すぎて、長剣が石壁に当たってしまった。


「ウガッ!!」


「オライン!!」


 まずいまずい!

 三本の槍がオラインに突き刺さったじゃない!


「こんなものーーー!!」


 オラインは槍が腹部に突き刺さった状態で長剣を再度振り、モンスターをたたっ斬る。


 一匹絶命。


「ツキネ!ウコッカ!後ろに回り込んで二匹を挟み撃ちにするゾ!」


「わかった!」


 オラインの指示でアタシとウコッカは素早く奴らの後ろに回り込んだ。


 醜悪なモンスターは次に短剣を抜き、アタシ達に斬りかかってきた。


「あーもー!!」


 短剣と短剣での斬り合い。

 僅かにアタシの方が技量は上で何度も切りつけているにも関わらず、怯まない。


「くっ!何なのよ、このクソ共は!」


「早くー!オライン!」


「オオオオオオ!!」


 後ろからのオラインの斬撃で残りの二匹が倒れた。


「はぁ…はぁ…はぁ…!冗談じゃない…!」


「やばいなーコイツラー…」


「おいオライン、腹は大丈夫か?」


「ああ…筋肉のところで何とか刃先は止まっている。少し治療すれば問題ない…」


「何なのよ、この不細工な化物は…」


 すると突然死体が光の泡となって消えた。

 そしてそこには赤く淡く輝く小さな宝石のような石だけが残されていた。


「これなに?」


「きれいだねー。持ってこうよ!」


「これは美しいものだ!俺様にふさわしい!」


「死体が残らんとは……あの男の言っていたダンジョンとかいう娯楽施設の特徴なのか?」


「でも娯楽施設の割に傷は痛むんだよね?」


「ああ…普通に痛むな」


 やっぱりここは普通じゃない。

 あのクソ野郎に騙されたんだ。


 何が目的かはわからないけど、戻ったらブチ殺す!


 カルラスが携帯傷薬と包帯でオラインの傷を応急処置した。


「進むわよ。さっさと出口を見つけてあのクソを殺す」


「賛成だ」


 歩みを進める。


 少し歩くと、右側に扉があった。

 恐る恐る注意して開けると、10メートル四方の部屋に出た。


 よく見ると、左右にも通路がある。


「あっ!みてみてあの角に木の箱があるよ!」


 ウコッカが急いでその箱に駆け寄った。


「何入ってるのかなー」


「迂闊に開けると危険。こんな何もない部屋にポツリと置かれている箱とか絶対やばい」


「いや、俺様の勘ではこの箱には宝石が入っているとでた!」


 カルラス…あんたは何を言っているの…。


「大丈夫だよー開けちゃおっと!」


「ちょっ―」


 心配をよそに、入っていたのは美しい小瓶3本だった。

 瓶には赤い液体が入っている。


「なにこれージュースかな?」


「ふむ…美しい瓶ではないか。こんな造形があるとは」


「飲まないでよ、ウコッカ。絶対毒だから」


「そ、そこまではしないよー―待って、何か来る!」


 ウコッカの気配察知は戦場では非常に有用。


 戦闘態勢に入る。


 それは左右の通路からやって来た。


 数は6匹。

 体は150センチ程だが、全員革鎧を身に着け、手には剣や斧を握っている。

 顔は狼か狐のような獣人系。


「うおおおおお!!オマエラ!今度は逆に挟み撃ちになったゾ!各自乗り切れええ!」


「あーーもーー!!」


「俺様は戦闘は苦手なんだよ!!」


「ほんと、最悪!」


 次々に襲い掛かってくるモンスター。

 さっきの緑の奴らよりも強い!


 もうオラインが頼りなんだけど!


「ぐあああっ!!」


「カルラス!!」


 カルラスが背後から斧の一撃を喰らい、倒れた。

 そしてもう一匹が倒れた彼の背中に剣を突き刺した。


「カルラスーーーー!!」


 クソッ!クソッ!クソーーッ!


「ぬおおおおおおお!!」


 オラインは必死に長剣を振り、モンスターに斬りかかるが、素早く躱されてなかなか捉えられない。


 だが既に2匹倒し、あと4匹!


「ウコッカ!大丈夫!?」


「まずーーい!!ヘルプヘルプーー!!」


「そうしたいけど!くっ!」


「きゃあああああ!!」


「ウコッカ!!」


 1匹がウコッカの腹部に噛み付いていた。


 彼女の装備は布。

 ダイレクトに牙が内臓まで届く。


「ぐっ…このーー!!」


 ウコッカが握っていた短剣で噛み付いている獣人モンスターの頭に突き刺した。


 これで3匹目。


 しかしウコッカはそのまま倒れ込んだ。


「ウガーーーー!!」


 いつの間にか2匹を片付けていたオライン。


 残りの1匹がオラインに向かっていったところをアタシは背後から短剣を突き刺した。


「ふぅーふぅーふぅー…これで全部か?ツキネ…」


「そ、そうみたい……」


 カルラスとウコッカは死んでいた。


「……ここは何?化物の巣窟じゃない!クソッ!クソッ!あのクソ野郎細切れにして豚の餌にしてやる!!」


「落ち着け。取り敢えずここから出て早いとこ出るゾ」


「わかってる!」


 またしてもモンスターの死体が光の泡となって消失し、赤い宝石だけが残った。


 どうでもいい。

 早くここから出ないと死ぬ。


 ずっと戦ってきた死んだ2人を弔いたかったが、ここではどうしようもない。

 他の仲間を連れて墓を立ててやろう。


 アタシとオラインは先を急いだ。


 通ってきた扉を出て、ダンジョン奥へと進む。


 すると、円形の割りと大きな部屋に出た。

 入って左側に奥へと通じる扉が見えた。


 途端、上空からバサバサという翼の音が聞こえてきた。


「上になにかいる!」


 それはこれまで見たこともない程大きなコウモリだった。


 10匹もいる!


 大きな牙に鋭い鉤爪。


 こんな奴らに集団で襲われたらひとたまりもない!


「今度はコウモリかヨ!!」


「オライン、あの扉から逃げるわよ!」


 だが、オラインの体には既にオオコウモリがまとわりついていた。


 オラインの自慢の巨躯から血がブシュブシュと吹き出て、いつの間にか剣撃が止まっていた。


「いやあああああああ!!助けて!!いやだ!いやだあああ!!」


 なんなのよここは!

 地獄!


 早く扉を開けて、逃げないと!


 よし!これでセーフ―


「え?」


 目の前から巨大な木杭が現れてからはアタシの記憶はない。



◆◇宮洞令司視点◆◇


「いやいやいや、シス、なんだこの高難易度な初級ダンジョンは。1時間程度で全滅しちゃったぞ?普通初級ダンジョンってのは誰でもクリアできるものだろう?それがなんだ、これは。最初にゴブリン3匹、リトルコボルド6匹、そしてデビルコウモリ10匹。いきなり集団戦とか鬼畜にも程がある」


「そんな誰でも攻略できる難易度にしたら、魔瘴など溜まらんし、面白味もないわい」


「でもすぐに死んだら魔瘴を溜めるなんてできないだろ?」


「問題ない。『負感』がある。最後の女はいい感じに絶望しておったのー。あれは魔族にとっていい餌になるわい、クックック」


「なんだその『負感』って?」


「負の感情じゃ。絶望、恐怖、悲鳴といったな。これがまた美味なんじゃよ」


 悪趣味ここに極まれり。


「だけどなあ、こんなすぐに死んだら誰も来なくなる気がするんだよなあ」


「心配するな。策は講じておる。それに帰還アイテムも渡してなければ探索者カードも無し。説明すらしていないお前の責任ではないか、ん?」


 コイツ!


 ん?なんだその探索者カードってのは。


「探索者カードってなんだ?」


「ルールブックに書いてあるではないか。探索者カードがなければダンジョンでモンスターを倒しても経験値もアイテムも取得できないし、レベルも上がらん。つまり今回お前がしたことは奴らにとってはただ死地に赴くことだったわけじゃ!あはははは!酷いのう!鬼!悪魔!令司は魔族よりも極悪人じゃ!あはははは!」


 くうううううううう!!


 絶対やめてやる!


 あの黒い霧出させたら絶対おさらばしてやる!


「あんな分厚い本をそんなすぐに読んで理解できるはずないだろう!何年かかるってんだよ!」


「文句だけはいっちょまえじゃのー。お前はルーラーなんじゃから文句の前にルールブックを最初から読み進めることが肝要じゃと思うぞ?」


「お前の言うことはいちいち怪しいな」


「では余は復活ポイントを作るぞ。どこに設置する?」


「どこか遠くがいい」


「それは無理じゃ。この扉から一定範囲までしか設置できん」


「じゃあその辺で適当に」


 扉から少し離れたところに水色のゆらめく球体が宙にプカプカと浮いている。

 これが復活ポイントらしい。


 3日後に奴らが生き返ってくるわけだ。


 その前にルールブックを読んで対応方法を知っておかないと。


 看板は撤去した。


 これで暫くは俺の安全も約束されるだろう。


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