恋慕の俤
暗褐色を乱雑に彩る
「おったおった」
再び縁側へと向かう其の折、
「なんや山椒魚がおらんなったらしいんや」
「先刻起きたとこや、知らん」
その儘、縁側へと戻りつつ門戸の閉まる音を後ろ手に聞いては、しめしめと瓶の儘で酒を一口
「
「済まんけど、なんや具合が悪い。
娘が訝しみつつ煙管を見るも、「御自愛為さって」と退去するのを見届け、幾度目かの大山椒魚待つ庭先見える縁側へ往く。
ふと頭へ舞い落つ、葉のような
よもや大山椒魚が庭より失せていたら。
途端急く気持ちを
煙草を一掴み、指先で弄んでは火皿へ詰め
大山椒魚は緩慢な動きをつっと止め、
広縁で
只、其れだけの事、と。なまじ大山椒魚など見なければ、と。紫煙の先で弄ぶ大山椒魚の至福は尽きぬ。されどそれは今の事。確かに心に在った娘への情愛は何処へ
煙管を離すと逆に持ち、煙管と逆の手の指にこちりと
「鳴呼、大山椒魚」
煙草も云い訳も弄び火皿へ纏め、擦った燐寸の緋を遷す。紫煙も離縁も
庭先の訪問者は
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