TSUTAYA
深夜2時前のTSUTAYAは妙に空気が透き通る。エスカレーターに乗ってシャッターだらけの店の間をすり抜けて、控えめな音量でミセスグリーンアップルが流れる店内へ入る。客足は昼間とそう変わらないだろう。大阪のゴールデンウィークはきっと夜からがはじまりだ。店内の左半分はレンタルコミックのコーナー。まだ入ったことはない。中性的なミセスの名前も知らないボーカルの声が真っ直ぐで爽やかな青春を歌うから深夜2時の眠れないTSUTAYAには偉く不釣り合いで笑えた。いつも真っ直ぐ向かうのは海外の映画やドラマが並べてある棚で、分類が難しいのか、国内のドラマや映画は綺麗に分けられているのに対して随分と見境なくタイトルだけを頼りに配置されたDVDやBlu-rayは明らかな乱雑さと混沌の中にあるように思う。棚四つ分の洋画コーナーをスーツで流れるように見ながら歩く。時刻は1時45分。2時に閉店する。急いで借りる作品を探さないといけない。これといって借りたいタイトルを決めてくることがないから、いつも借りる作品を選ぶのはタイトルの直感と、偏った海外の俳優の知識のみ。そのために一時間以上探していることもザラにある。iphoneでおすすめの海外映画、と検索を入れて目を通してみる。ある程度、すでに見てしまったものばかりが出てくるのは、もう随分と前からそのサイトのおすすめ作品を見ているからだ。
なにをするでもなく棚を往復する僕を明らかにバイトのネームカードをつけた茶髪の若い男性が見ている。きっともう帰りたくて仕方ないんだろうけど、閉店まであと10分はある。見張られなくてもちゃんと閉店には出て行くのに。未だミセスのボーカルが颯爽とサビを歌い上げる。こんな夜はamazarashiでも聞きたい気分なのに。結局、あと数分では見たい映画が決まりそうになくてTSUTAYA店員おススメとポップガードの貼られた正面の棚から数枚抜き取ってセルフレジに向かう。そう言えば少し前から映画になった人生、というコーナーが出来た。もう全て見てしまったけれど、政治家から犯罪者、実在した人の映画が並んでいる。ノンフィクションの方が、小説も映画も好きな僕はすぐに手を出してしまうけれど、その度にエゴだとおもう。エゴが何かも説明出来ないが。
店を出たら冷たい風が吹いた。店内からは未だにミセスが漏れ聞こえて、居酒屋の店員が客引きするだけの道路に不釣り合いだとまた笑えた。京橋の深夜2時に青春なんて糞食らだ。この街にとって青春なんてものはもうとうの昔に捨ててしまったような、燻った残り火すらもタバコの火の代わりになるような、開いたアルバムが灰で煤けてしまっていたような、そんなものだ。その程度のものだ。恋をするのがキャッチで引っかかる親父になって、好きな人からのLINEを待つ甘酸っぱい時間が、居酒屋で知らないお兄さんと呑んで体を触られるようになっただけの話だけれど。それだけで青くなくなってしまった僕たちを愛してくれる深夜2時。僕は何者にもならないから、急いで家に帰る。青春の燻りがまだ愛せないうちは、急いで家に帰る。
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