マーク・ザッカーバーグ

フェイスブックを立ち上げたマーク・ザッカーバーグの、母校ハーバードでの卒業スピーチをついこの間YouTubeで見た。残念ながら英語をすらすら理解することは出来ないので日本語訳をお借りした。実にアメリカ的で、世界を相手にしている彼の見た、成功者と不法移民者の青年と、そしてこれからの時代を作るハーバードの卒業生に向けた、彼らに向けた言葉達だった。このスピーチは本当に素晴らしくて、ハーバードの卒業スピーチと言えばApple社のスティーブ・ジョブズの「stay hungry、stay foolish」が有名だが、もちろん僕も全て聞いたことはあるが、それよりも遥かに素晴らしく思えたのでここに書いておきたいと思った。

日本の大学は基本的に24歳あたりで卒業する。けれどハーバードの卒業生には元市議会議員がいたりする。学びたい人が学びたいように学ぶ。そこにレールもルールもきっとない。アメリカ的で、だからこそ、日本人が聞くべきスピーチに思えた。どうせなら英語も理解して、なんならアメリカで生まれ育ったかのように英語を理解して聞いてみたかったけれど残念ながらそれは叶わない。


彼はしきりに世界中誰もが目的意識を持つことのできる世界を訴えた。そのためには大きなプロジェクトに人を巻き込んでいっしょに達成しようとすること、そして、その目的に向かって挑戦できる平等性、それから、コミュニティ、日本でいうなら、繋がりや小さな社会を作ることが大事だと。

目的感、目的意識については、彼が用いたジョン・F・ケネディがNASA宇宙センターを訪れた際のそこで働く清掃員との会話が非常に印象的だった。有名な話だそうだけれど、僕は残念ながら知らなかったのでここで紹介しておきたいとおもう。

ケネディがその清掃員に、君は何をしてるのかと訪ねたらその清掃員は「大統領、私は人類を月に送る手伝いをしているのです」と答えた、という話だ。

これは凄く素晴らしいことで、特に僕の思う、日本人、つまり僕のことなんだろうけれど、きっとこんな答え返せない。掃除してます。この一言で精一杯だ。だけど、そうすればただ掃除をしている僕と、この清掃員と、単純なものさしでは測れないが、人生の豊かさや、生きる意味や、もっと言えば人間の価値まで変えてしまう、そんな気がする。

ザッカーバーグが言いたいのもきっとこういうことで、そしてそんな目的意識、目的感、それらを皆が持てるような世界にしなきゃいけない。ということだと思った。そうして、その目的、や一人一人の役割意識、というものをみんなが持てるような大きなプロジェクトや、仕事をすぐにでも始めなくちゃいけないということ。

二つめは、目的に向かって挑戦できる平等性だった。素晴らしい発明や、素晴らしい文化、音楽、作品はその数倍の失敗から生まれる。それは失敗が出来る環境や、何度も試すことのできる環境下でしか生まれないということだ。ザッカーバーグはFacebookを作る前に、チャットシステムや、ゲーム、その他様々なものを作り出した。決してFacebookな処女作だったわけではない。J Kローリングはハリーポッターを世の中に出すまで、12回も断られた。ビヨンセはHaloを出すまでに何百曲も作った。偉大な業績は失敗する自由から生まれる。Facebookを、作るときに、これが成功しなければ死ぬかもしれないなんて思わなくていい環境にいるからこそ、Facebookを作ることができたという。沢山の起業家が、この事業が成功しないから辞める、なんてことはしない。辞める理由は、この仕事が失敗した時のための担保となる経済的余裕がないからだ。また、失敗する自由を奪うのはお金だけではない。彼が出会った不法移民者の青年が、「僕は大学に行きたい、けれど行けない。」という。目的があるのにも関わらずそれに挑戦できる環境がない。それを、変えていかなければ行けないし、変えていけるのは、ハーバードを卒業し、大多数がその恵まれた側にいる僕たちだけだと。

その不法移民の青年が、誕生日のプレゼントに、社会正義の本が欲しいと言った。彼の大学に行きたいという目標を、いとも簡単に潰してしまうような社会や、その目標を阻んでいる彼を一番よく知るであろう祖国、そういうもののために彼は勉強がしたいと言った。彼はシニカルになってもおかしくない状況や環境の中にいながら、それでも精一杯生きていく方を選んだ。そんな彼のために僕たちが社会と新たな契約を結ばなくちゃいけないし、小さな彼が社会正義を学ぼうとしているのに、遥かに多くのことを学んだ僕たちが何もしなくてもいい訳がないとザッカーバーグは、スピーチの中で一際語気を強めて言った。そういう、平等性。皆が目的を成し得る為の努力や挑戦ができる平等性。そして失敗をする自由。それが必要だ。


三つめは、コミュニティを作ること、属すること。Facebookを作って彼が確信したのは、人々は繋がりたがっている、誰かと共有したがっている、ということだった。様々な仕事がAIや、人工知能に取って代わる時代が来る。そういう未来を目標とし、挑戦し続ける人たちがいる。悪いことではないけれど、その反面、店のレジは機械と自分で出来るようになったし、外に出ずともスマートフォン一つで買い物が出来るようになった。便利に便利に物事は変化して行く。その中で、集団、というものがこれまで以上に望まれているのだと。この数年で、世界の4分の1のコミュニティが消えていった。その反面、様々な思いもよらないコミュニティが出来上がった。だから、ハーバードの卒業生、社会に影響を与える人間になるであろう彼らがコミュニティを作ること、それもより多くの人が繋がりたいと思えるようなものを。それが大事だと言った。今、自分のアイデンティティは何か、という問いに「国」や「人種」と答える人よりも、「世界市民」と答える人の方が多いという。これはすでに個人を捉えるものが国や人種、性別ではなくこの世界の人間であるということだ。世界というコミュニティの中で、国や人種ではない、コミュニティや枠組みを構築していかなければ行けない。世界市民が世界市民のために。



何かを始める時は、誰かが必ず、お前はやろうとしていることを完璧に理解していない、という。けれど、アイデアは初めから完成形でやってこないし、そう言った誰かでさえも、この先どうなるかなんてわからない。また、人の先を走るときは、誰かが必ず、そんなに急がなくていい、という。どの道にも先を行かれたくない人間がいるからだ。

ザッカーバーグはFacebookで初めてハーバードの寮生同士を繋げた時、今は寮の中だけだろうけど、きっとどこかの誰かが、こうして世界中を繋げるだろうと思ったらしい。自分ではなく、何処かの誰かが。

だけど、彼は、今、どこかの誰かではなく、自分だと、自分しかいないんだと思って欲しいと言う。

自分ではなく、誰かが、この先必ず成し得るであろう何かが見えた時、それは君が成し得るべきものだと。

彼はそう、ハーバードの卒業生に向かって言った。



ザッカーバーグのスピーチについてはここまでにしておくけれど、彼のこのスピーチだけでも、ああ、そうだったのか、と感じる言葉がいくつもあった。きっと日本人に響く言葉も沢山ある。僕に響いたのだから。


是非来てもらいたい。

英語の理解が素晴らしい方は翻訳を見る前に自分で訳しながら見てほしい。僕とは違うザッカーバーグという人物が見えてくるかもしれない。


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