須王龍野VSシュヴァルツシュヴェーアト・ローゼ・ヴァレンティア(訓練試合本番・シュシュSide)

 私の繰り出す連撃を、ひたすら回避する兄卑。

 銃は黙らせた今、残るは右手のショートソードだけ。

 このまま押し切れば……そう思っていた時、お姉様から念話が飛んで来た。

「剣技のみで戦う必要は無くてよ? シュシュ」

 そうだった。兄卑は魔力を絞られて実体武器で戦っているけれど、私は魔術が思う存分使えるのでしたね、お姉様。

 私は魔力噴射バーストを発動して、兄卑から一気に距離を取る。

「へえ……魔術か」

 兄卑が余裕ぶって呟く。いつまでその態度でいられるのでしょうね。

 私はすぐさま魔法陣を展開し、照準を兄卑に定めた。

「『絶えぬさざなみ』」

 魔術師の中では基本中の基本である、連射系魔術。勿論この程度で仕留める気はさらさらない。

 だけど贅沢に障壁を使えない兄卑は、この程度の魔術すら回避しなければならない。そうしなければ敗北確定だもの。

 狙い通り、直撃を避けようと逃げ惑う兄卑。いい感じね。


 これで、本命を仕掛けられるわ。


「『光よ……我が水にかしずけ』」

 私は新たな詠唱を終えると、兄卑に肉迫した。

 ちょうど連射系魔術の展開が終了する。同時ね。

 氷剣は最早無意味だから、魔力に還元したわ。

 うふふふ……後は兄卑を、一方的に蹴倒すだけね。ああ、生意気な相手を足蹴にするというのは、想像するだけでゾクゾクするわ。

 さあ、まずは一撃!

「なっ!?」

 うふふ、兄卑が動揺してるわ。

 私は心の中で愉悦を感じながら、もう一撃加える。

「ぐっ!」

 やり過ぎると位置を把握されるから、一旦退かないとね。

 足音は消しても消しきれないから、考えないことにするわ。

 さあ、兄卑の後ろにつけたわ。もう一度っ!

「うあっ! シュシュ……魔術を使ってきたか……!」

 さといわね。流石は兄卑。

 そうよ、魔術で姿を消せば、優位に立てると思ってね。

「だが……これでどうだっ!?」

 剣を大振りに振る兄卑。なるほど、感覚で位置を掴む腹積もりね。

 けどお生憎様、ショートソードの攻撃範囲内に私はいない。当然よね、いくら障壁があるとはいえ、攻撃を食らいたくはないのだから。

 兄卑の悪足搔きが止まる。それを見計らい、私は一気に距離を詰め――

「(やあっ!)」

 心の中で掛け声を出しつつ、もう一度蹴りを見舞う。

 決まった――そう思ったとき。

「あまり俺をなめるんじゃねえぞ、シュシュ?」

 兄卑に足を掴まれてしまった。……ひいっ!?

 あ、兄卑、何で私の体をなぞって――!?

「ここか、殴るべきところは」

 えっ?

「せいっ!」

 掛け声と共に、鈍い痛みが私を襲う。

「ぐっ……!」

 ショートソードの柄を叩き込まれてしまった。

 兄卑はもう一度私の体をなぞり、腕を掴む。

「おりゃぁああああああっ!」

 日本の柔道の――一本背負い。

 ふわりと体が浮いたかと思えば、私は勢い良く地面に叩きつけられた。

「これで終わりだな」

 そのままショートソードを首元にあてがわれる。

 最早勝機は無いと悟った私は、透明化を解除して兄卑に告げた。

「降参よ」

 その言葉を聞き取ったお姉様が、高らかに告げた。

「そこまで! 勝者、須王龍野!」

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