須王龍野VSシュヴァルツシュヴェーアト・ローゼ・ヴァレンティア(訓練試合本番・龍野Side)
「叩き込んだぜ」
シュシュの手紙の内容(の内、試合に関する重要項目)をほぼ暗記した俺は、拳銃を抜いてシュシュに構えた。
「ハンデには丁度いいな。幸い、いくらか扱っているうちに、こいつの使い方は覚えた」
「言ってくれるじゃない、兄卑?」
シュシュが表情を曇らせる。まったく、単純な女だ。
俺とシュシュの距離は20m程。彼女の
何故なら――俺は銃を構えた状態で、試合を開始できるからだ。
でなければ、ヴァイスに「銃を下ろしなさい」と、とっくに言われているだろう。
チラリとヴァイスに目配せする。すると、微笑みを返してきた。
「認めるわ、龍野君」――そういう意味だ。
俺は深呼吸をすると、銃の照準をシュシュに合わせ、構えを再確認する。
「準備はいいか? シュシュ」
シュシュに声を掛けると、氷剣を手にしたシュシュが力強く返事してきた。
「いつでもいけるわ、兄卑」
お互いの準備状況を確認する。
ふと、「これは訓練だからこそ、そんな余裕があるんだ」という思考が頭をよぎった。
俺も大分、実戦の感覚に馴染んできたんだろう。
「両者準備はいいかしら?」
ヴァイスが確認の声を掛ける。
俺達は静かに顎を引き、眼前の相手を見据えた。
「では――始め!」
号令が終わると同時に、俺は拳銃の引き金を絞る。
ダンッ、と耳をつんざく轟音が響く。続けて、二度目、三度目。
「甘いわねっ!」
同じように号令が終わったタイミングで仕掛けていたであろうシュシュは、構えを崩さずに肉薄する。
「フッ!」
素早くサイドステップし、氷剣の振り下ろし攻撃を回避。
やはり障壁に実弾は効かない。今の三発で、容易く証明された。
だが『そのままでは効かない』のなら、『効くようにすればいい』。
銃を素早く左手に持ち替え、右手でショートソードを抜く。
心中で魔力を銃弾に込めるイメージを浮かべる。
「そこっ!」
やはり隙はあったようだ。シュシュが剣を構え、再び突進を試みる。
だが俺は避けず、ショートソードでシュシュの氷剣を受け止めた。金属音が響く。
俺は多少の余裕を持たせつつも、右腕一本でシュシュの斬撃に抗う。
「~ッ、このっ!」
一方のシュシュは、顔を真っ赤にして剣を押し込む。
俺は右足で思い切りシュシュの腹を蹴飛ばすと、すかさず銃を向けた。耳を裂く音が、三連続で響く。
やはりというか何というか、三発とも障壁に弾かれる。だが今回は違った。
障壁に僅かながらもヒビが入ったのだ。
もっとも手持ちの残弾数は15+1状態の
この程度のダメージでは、『銃弾に魔力を込めて対魔力弾とし、障壁を突破する』などという作戦は到底望めない。
だが、魔力の残量から計算すると、迂闊にガントレットやレガースを付けるワケにもいかない。ならばどうするのか。
答えは簡単だ。ショートソードに魔力を込め、メインの武器とすればいい。もしくは腕や脚に最低限度の魔力を纏わせ、対障壁の手札にすればいい。
そうと決まれば行動あるのみだ。
俺はシュシュの斬撃を余裕を持ってかわし、ショートソードを――魔力を込めて――振るった。
「はあっ!」
再び、ガキンと金属音。
やはり『水』の障壁は、全属性中最高レベルの耐久性を誇る。
すかさずシュシュのカウンターが来る。今からでは避けられない。
そこで俺は剣の柄を、シュシュの剣の予測通過コースに被せた。狙い違わず、金属音が響く。
「な……。どうして、柄ごときに私の剣が!?」
「簡単だ。魔力乗せりゃ、そのくらいは防御できるッ!」
再び右足で腹を――狙いはせず、代わりに足払いを決める。
だがシュシュは、俺の予想の斜め上の方法で転倒を回避した。
「”距離が詰まり過ぎれば足を出す”。兄卑の癖ですわよ?」
剣を床に突き刺し、柄を握って倒立したシュシュが言い放つ。
「(ヤベっ!)」
危険を反射で察知し、体を大きく右に振る。
その直後、先程まで俺がいた空間を剣が通り抜けた。
どうやら再び足を床に付けるための動きに合わせ、下から切り上げるような剣の振るい方をしたのだろう。
だが幸いなことに、俺はまだ拳銃を握っていた。
今度は二発、シュシュに叩き込む。
本当は三発撃ち込みたかったが、時間がない。素早く『ショートソードを扱う』ことに意識を切り替える。
腰を入れ、シュシュの斬撃への迎撃態勢を整える。
「なかなかね、兄卑。けどっ!」
シュシュが油断を誘う言葉を放ちつつ、肉迫してくる。
「これならどう!?」
シュシュが剣戟を放ち――ッ!?
「ぐっ!」
剣を受け止めたと思ったら、ヒールのつま先が脇腹に刺さっていた。素早く脚を元に戻すシュシュ。
「なめんな、よ……!」
今の一撃はいい威力だった。俺に筋肉の鎧が無ければ、肋骨の数本――待て、何かがおかしい。
ヒールのつま先が、脇腹に刺さった……? まさか!
「シュシュお前、障壁貫通のイカサマしてるな!?」
「当然でしょ。私のヒールを改造してもらったとき、対魔術師の肉弾戦で優位に立てるように『賢者の銀』を使ってもらったんだから」
「『賢者の銀』……魔術無効・魔力吸収の貴金属か」
「そうよ」
通りでただの蹴りごときが直撃すると思った。そうか、イカサマ済みか、シュシュ。
こりゃあいいな。
不利に不利を重ねた条件……突破しがいがあるってものだ!
「さあ、続きといきましょ!」
「焦るなよ!」
左手で引き金を絞る。
轟音と手に伝わる反動を代償に、凶暴な一撃を吐き出す。
だが、今回もシュシュの障壁に僅かな傷をつけるのみだった。
「いつまで無駄撃ちを続けるつもり!?」
シュシュが剣を振るう。
今回も防御――ダメだ何かが違う、避けねえと!
「左手を残したわね」
氷剣が銃を直撃する。纏わせた魔力のお陰で切断はされなかったが、不安定な態勢のために勢いを殺しきれない。
そのまま手をすっぽ抜け、地面に激しく叩き付けられた。ありゃ後で修理だな。
「ほらほらほらほらっ!」
追撃の手は緩まない。氷剣が乱舞し、大した耐久力を持たない今の俺の障壁を粉砕しようと唸る。
今は回避に専念するしかなかった。
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