手順40 カタをつけましょう
「だって、気持ち悪いんですもん。もうちょっと我慢したら慣れてくるかなって思ったんですけど、やっぱり耐えがたくて。自分に欲情してくる男をからかうのって滑稽で面白いんですけど、それで肉体関係持てるかというと、ただただ気持ち悪いだけでした。じゃあ、なんかもう無理なんで帰ります」
馬鹿にしたような笑いを浮かべながら言ってボクが飯田橋先生の手をどけようとした瞬間、ボクの左頬に強い衝撃が走った。
殴られたのだと気づいた時にはボクの身体は机の上に押し倒されていて、飯田橋先生にワイシャツのボタンが強引に引きちぎられる。
「馬鹿にしやがって! そんなら今すぐ犯してやるよ!!」
ボクは覆い被さってきた飯田橋先生の股間を蹴ると、先生がうめき声をあげて力を緩めた隙に抜け出して、そのまま出口へと走る。
このままドアを開けて外にいる生徒達の注目を集めてしまえば、ボクの勝ちだ!
「逃がすかっ!」
しかし、後ろから腕をつかまれそのままボクは飯田橋先生に床に押し倒されてしまう。
上にのしかかられてマウントポジションを取られてしまうともうどうしようもない。
「衝動的に動く前によく考えるんだな、お前の今の格好をよく見てみろ、確かに今外は騒がしいが、男の癖にこんな格好で教師と事に及ぼうとしている変態がいきなり出てきたらみんなどう思う、お姉さんも心底がっかりするだろうなあ……」
「…………」
なんというか、思った以上の下衆で逆に感心さえする。
本当につづらがこいつに相談なんてしなくて良かったとつくづく思う。
「やっと自分の状況を理解したか? なに安心しろ、お前の希望通りじっくり可愛がってやるよ、俺なしでは生きていけないような身体にしてやる」
そう言いながら飯田橋先生はボクを押さえつけていた手をボクの服を剥いで胸をまさぐってくる。
「誰かーーーー!! 助けてーーーーーー!!!!!!」
「なっ!?」
突然のボクの大声に飯田橋先生がひるんだ隙に、ボクは飯田橋先生を押しのけて部室の戸を開けた。
「助けて! 飯田橋先生に犯される!!」
ボクが大声で叫びながら走ればプリン目当てに料理研究部に押しかけていた生徒達が一斉にこちらを見る。
思った以上にひどい感じになってしまったけど、もはやどうでもいい。
大勢の生徒の前で、飯田橋先生が生徒に乱暴しようとしている状況がさらされた今、飯田橋先生はもう完全に詰みだ。
「おいふざけるなよお前! これは芸術だっていってるだろうが!!」
しかし、これでおとなしくなるだろうと思っていた飯田橋先生は、むしろ明らかに詰んだとわかって自棄になったのか、ずかずかとそそり立った下半身を丸出しにしてこちらに向かってきた。
「え、ちょっ!」
途中、何人かの生徒が止めようとしてくれたけど、自棄になった人間の力というのはすごいらしく、自分にまとわりついてくる生徒達を次々と払いのけていく。
しかし飯田橋先生がボクの目の前に来た直後、先生はきれいな円を描いて投げ飛ばされ、そのまま押さえつけられた。
「往生際が悪いよ☆」
寺園先輩だった。
さすが寺園先輩だと思っていると、そっとボクの肩に何かがかけられた。
見れば見覚えのあるカーディガンだ。
「尚ちゃん! 怖かったね! 大丈夫?」
カーディガンが掛けられた直後、ボクはつづらに抱きしめられた。
いつもより間にある布が少ない分、より柔らかく、暖かい。
「ほっぺ赤くなってる……何があったかは知らないけど、もう大丈夫だからね!!」
そう言って、つづらは泣きながらボクを保健室へと連れて行こうとする。
「あ、待って、でもボク……」
「大丈夫☆ 状況見れば大体わかるよ♪ 先生への連絡とかはこっちでしておくよ♡ 後で先生から事情を聞かれると思うけど、今は休んでね☆」
このままこの場を離れていいものかと思って振り向けば、岡崎先輩に飯田橋先生の拘束役を代わってもらったらしい寺園先輩がウインクしてきた。
周りを見れば、何人かスマホで飯田橋先生を撮影している生徒はいたけれど、こちらにカメラを向けている生徒はいなくて、皆僕達のために階段への道を開けている。
「ありがとう杏奈ちゃん、さ、尚ちゃん行こ?」
こうしてボクはびっくりする程丁重な扱いを受けながら保健室へと向かった。
その後の事は思ったよりもあっけない。
保健室に連れて行かれたボクは先生に温かいお茶を入れてもらって、かなり心配されながら事情を聞かれたので、写真のモデルをしてくれと言われたので引き受けていざ撮影となったら襲われたと話した。
つづらは話している途中もずっとボクの隣にいて、気づいてあげられなくてゴメンねと泣くので、
「最近まで本当に普通の先生だったんだ。写真のモデルを一昨日に頼まれたときもちょっと様子が変だなとは思ったけど、まさかこんな事になるとは思わなかったんだ」
と説明した。
つづらはボクを優しく抱きしめて、
「そっか、怖かったね。もう大丈夫だからね」
と言って何度も何度もボクの背中を撫でてくれる。
ボクとしてはやりとげた感はあったけど、特に精神的に傷ついたりは無かったので、ただただいつもよりも柔らかかくて暖かいつづらの胸と甘い香りを堪能していた。
しばらくすると寺園先輩が写真部の部室に置きっぱなしだったボクの服を持ってきてくれた。
「実は尚くんの服を取り行った時、変な物見つけちゃってね、長谷川くんが機械に詳しいから聞いてみたら、盗撮用の小型カメラだって☆ それで今また大騒ぎになってるよ♪」
と、教えてくれる。
その話を聞きながら、そうか、教室に仕掛ける監視カメラを用意したのは長谷川先輩だったのか。
と、ボクは他人事のように思う。
後日、ボクは警察に事情を聞くために呼び出されたりもしたけれど、心配だからとつづらが付いてきてくれて、事情聴取が終わった後は二人でクレープを食べて帰った。
普段ボクはカロリーを絞っているけれど、つづらと食べるお菓子は別腹だ。
むしろ、こういう時の為に普段からカロリーを絞っている。
ちなみに、飯田橋先生をフリフリのエプロンとパニエの入った可愛いスカート姿の寺園先輩が投げ飛ばした動画は、ツイッターや動画投稿サイトに投稿され、たちまち話題になった。
同時期に飯田橋先生がつづらの机にいたずらしている場面が学校裏サイトや匿名掲示板、動画投稿サイトなどにも投稿され大炎上、大規模な祭りになる。
まとめサイトも作られ、飯田橋先生の罪状やら余罪の予測やらが事細かに書かれていたけれど、被害者側のボクの事についてはほとんど情報が無く、実はボクが男だという情報さえ出ていなかった。
けれど、どこからか働きかけがあったのかそれは数日のうちに削除された。
テレビでも、飯田橋先生のニュースは一瞬大きく取り上げられたけれど、内容はかなりぼかされていたうえにすぐに報道されなくなる。
……桂秋学院は政界や財界に繋がりのある家系の人間も多く通う名門だとか聞いた事はあるけれど、まさかそういう事なのだろうかと、ちょっと世の中の裏側を覗いてしまったような気になったりもした。
しかし、寺園先輩は名前こそ出てきていなかったものの、変態教師を投げ飛ばした正義のヒロインとして持ち上げられて、一つのキャラクターになっていてAAやイラストなんかが投稿されたりしている。
そして、実際に事件のあった桂秋学院でもそう簡単にあの事件の記憶は消えない。
「うーん、おかしいな? ここ最近、何人もの人に告白されるんだけど、全員女の子なんだ☆」
「飯田橋先生を取り押さえた時の寺園先輩、かっこよかったですもんねえ……」
放課後、ボクとつづらと寺園先輩、岡崎先輩と入谷先輩の五人で帰りながら不思議そうに首を傾げる寺園先輩に、ボクはなにもおかしくないんだよなあ、と心の中でつっこむ。
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