Step3

手順24 友達に相談しましょう

「うーん、どうしたものか……」

「ナオミちゃんどうしたん?」

 木曜日の二限目の終り、ボクが呟くと良樹が不思議そうに尋ねてきた。


「ちょっと自分の方向性に迷ってて……」

「へー、何に対する方向性?」

「好きな人へのアプローチの仕方とか……」

 昨日からずっと自分で考えても答えが出ないので、ボクはいかにもチャラそうな良樹に相談して見る事にした。


「その二つは並べて考える事なのか……?」

「並べてるというか、今悩んでる事がその二つというか……」

「好きな相手へのアプローチはナオミなら色仕掛けしてそのまま押し倒して可愛く迫るだけでいけるんじゃね?」

 さらっと良樹は言うけれど、なんだか想定している相手が違うような気がする。


「相手は女の子なんだけど?」

「マジか」

 なぜ、そこで驚かれなきゃいけないのか。


「ちなみに相手ってこのクラス?」

「いや、別のクラス。というか上級生」

 そして意外に食いついてきた。


 とりあえず、義理とはいえ姉が好きと正直に言ってしまうとつづらに迷惑がかかりそうなので適当に誰かははぐらかしておこう。


「あー……俺誰だかわかった」

「え」

 後ろから武の声が聞えて、ボクは振り向く。


「誰だよ」

「寺園先輩だろ? この前ナオミが不審者に襲われてたのを助けてくれた先輩」

 良樹が尋ねれば、武は自信ありげに答える。


「なるほどな、確かにそんな相手をいきなり押し倒そうとしても平然と返り討ちに遭う未来しか見えないな」

 そして、良樹もあっさり納得する。


「違っ……くはないけど……」

 初め、ボクは否定しようとしたけど、考えてみたら寺園先輩以上に隠れ蓑にちょうどいい人もいない。

 寺園先輩は岡崎先輩が好きで、ボクがつづらを好きな事も知ってるから、万一その事で噂が伝わっても誤解を解きやすいし、表向きはずっとボクの片思いという事にしやすい。


「でも寺園先輩とは家に遊びに行けるくらいの仲なんだろ?」

「いや、と言ってもただの友達というか、弟分というか……」

 ……これはつづらに対しても通じる事だけど。

 良樹の言葉に思わずため息が出る。


「むしろ妹扱いされてそうだな」

「それな」

 武の言葉にボクは同意する。


「まあ、その見た目じゃな……」

 武は妙に納得したようにボクを見ながら言う。

 正直、妹扱いは構わないけど、全く恋愛対象として見られていないという現状をなんとかしたい。


「というか、その格好やめればいいんじゃね?」

 すると、良樹が見も蓋もない解決法を提案してきた。

 女装をやめれば解決する事はわかってるけど、そうしたら今度はつづらの好みから遠ざかってしまうので却下だ。


「それ以外の方法で頼む」

「えー……なら、むしろそういうのは女子に聞いた方がいいんじゃないか?」

 良樹は呆れた様子でボクに言う。

 つづらは色々と特殊だけど、もしかしたら同じ女子からの意見というのも参考になるもしれない。




「え? 尚ちゃんが女の子を落とすには? なにそれ面白そう! 詳しく聞かせて!?」

「え~、なになに尚ちゃんの恋バナ~?」


 昼休み、いつものように五人でお昼を食べるタイミングでカリンとあめやんに聞いてみると、二人共目を輝かせながら食いついてきた。


「ナオミに好きな人がいる寺園先輩の事が好きらしいんだけど、女子目線でどうしたらいいと思う?」

 良樹が手短にカリンとあめやんに説明する。

「当たり前のように相手を公表したね……」


 名前は伏せてくれるかと思ったら、平然とバラされた。

 つづらの名前を出さなくて本当に良かった。


「だってその方が具体的なアドバイスもしやすいだろ? ……もしかして、誰かは隠してた方がよかったか!?」

 ハッとしたように良樹が言う。

「まあ、カリンとあめやんはいいけど、言いふらされるのは嫌かな」

「悪い……ナオミって何事にも堂々としてるからてっきり……」


 確かにボクも何でもはっきり答え過ぎたような気もするけど、それとこれとは別だ。

 というか、クラス内だけならまだいいけど、この話がつづらのクラスまで届くとまたややこしい事になるので避けたい。

 余計に昨日つづらからかけられた誤解を解きにくくなってしまう。


「別にボクも何でもかんでも公にしたい訳じゃないよ……今度、お茶でもおごってよ」

「ジュースじゃないんだな」

「むやみやたらとカロリーをとる気は無いんだ」


 不思議そうに言う良樹に僕は答える。

 ジュースのカロリーというのは意外と馬鹿にできない。


「女子力の波動を感じる……」

 なぜかカリンがゴクリと息を飲んでいた。


「でも、寺園先輩か~部活紹介の時とかに見た可愛い先輩だよね~アレはパニエに重ねたスカートとフリフリのエプロンの合わせが可愛かったな~」

 新入生歓迎会の事を思い出すようにあめやんが言う。

 そういえばあめやんと寺園先輩は微妙に服の好みが近そうだ。


「距離を近づけたいならナオミも料理研究部に入ればいいのに。というか、体験入部しただけでどうやって家に遊びに行くような仲になったかの方が気になるんだけど……」

 ボクは結局入部しなかったけど、カリンはあの後、料理研究部に入部している。

 部が同じ訳でもないのに学年の違う寺園先輩とどうやって仲良くなったんだと不思議そうに尋ねられた。


「寺園先輩が姉と仲が良いからその繋がりで……」

「じゃあこの前寺園先輩の家に遊びに行った時も実はお姉さんが一緒だったり?」

 ああそういう事か、とカリンは納得したように言う。


「いや、ボクだけだけど……」

「じゃあ、寺園先輩の部屋に二人きりだったの?」

「まあ……」

 直後、四人の視線がボクに突き刺さる。


「何話してたの~?」

「姉の話とか、寺園先輩の話とか、色々……」

「それはもう脈アリじゃないの?」

「密室で二人きりなんて、手くらい握ったりしてるんじゃない~?」


 あめやんとカリンが机に身を乗り出しながらボクに尋問してくる。

 二人共妙に目を輝かせて生き生きしてる。


「いや、それが異性として見られてないというか、妹扱いみたいな……」

「ふふふ、ナオミちゃん可愛いもんね~」

「あっはっは、弟じゃなくて妹なんだ」

 ボクが答えると、カリンとあめやんは一瞬きょとんとした後、妙に納得した様子で笑い出した。


「そこはせめて弟でありたいよな」

「だから、異性として見て欲しいなら女装やめればいいんじゃねって言ったんだけど、ナオミちゃん的にそれは違うらしい」


 武と良樹が横からうんうんと頷きながら話す。

 ……なんか、相手がつづらである場合と前提条件が違いすぎて、ここでアドバイスを貰ってもあんまり役に立たないような気がしてきた。


「なんかソレ、一周回ってかっこいい……」

「へ?」

 カリンは良樹の話を聞くなり、笑うのをやめてポツリと呟く。


「ナオミはこの格好が自分に一番似合うって信念を持って女装してるんだよね。それってかっこいいと思うし、こうなったら簡単にその信念を曲げちゃダメだよ!」

 カリンは力強くボクの目を見て言う。


「う、うん、ありがとう……」

 別に女装する事に信念とかはないんだけど……。


「でも、だとして女装で異性として見られてない中、どうアプローチするんだ?」

「そこはほら、あれだよ~ナオミちゃんの可愛さでメロメロにするんだよ~」

 武が首を傾げれば、ニコニコしならあめやんが訳のわからない事を言い出す。


「積極的に新しい扉を開かせに行けばいいんだよ!」

「……ナオミはたまに妙に色っぽかったりするもんな」

「まあ、それはそれで……」

 カリンが自信満々で言えば、良樹と武もなぜかそれに納得する。


「えっ」

 四人とも、完全に面白がっている。

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