Step2
手順11 情報を共有しましょう
事件は、ボクと寺園先輩が協力関係を結んだ翌週の月曜日に起こった。
寺園先輩:蛇がいる!
寺園先輩:つづらちゃんの机の上!
寺園先輩:黒い悪魔もでた!!
……というラインが今朝来た時はちょっと本気でつづらの教室に乗り込もうかと思った。
その日の昼休み、ボクは料理研究部の部室へと向かう。
今朝、つづらに何があったのか、寺園先輩に詳しく教えてもらうためだ。
「それじゃあ第一回、つづらちゃん会議を始めるよっ☆」
待ち合わせた部室に既に到着していた寺園先輩は、ボクがやってきて席に着くなり弾むような声で言った。
「寺園先輩、今は二人だけなんでそのテンションじゃなくていいですよ?」
「無理にでもこのテンションを保たないと憤怒で私の理性が吹っ飛んでバーサーカー状態になっちゃうかも~♡ それでもいいならそうするよ?」
「あ、今のままのテンションでお願いします……」
顔は笑っているのに目が笑っていない。
どうやら寺園先輩も今回の件についてはかなりご立腹の様子だ。
「うん、わかった♪ じゃあ、一応情報の整理しとこうか☆ 今朝、つづらちゃんの机の上に結構リアルな蛇のおもちゃが置いてあったのはラインで話したよね?」
「メッセージが来た時は何事かと思いましたよ」
ため息混じりにボクは答える。
「その後机の中からも触角が特徴的な黒い虫のおもちゃも出てきて、朝のホームルームが学級会議になっちゃった☆」
「それで、犯人は……」
「見つかる訳ないよねー☆ 証拠なんて無いし、こんな事する人間はまず名乗り出ないし、そもそも、私達のクラス内の犯行とも限らないしね♪」
「まあ、そうですよね」
前にも似たような事があったようだし、家では何事もなかったかのように振舞っているけど、いい加減心配だ。
「問題は、その後☆ つづらちゃんを心配した取り巻きの男の子達が張り切りだしちゃって大変だったんだ~!」
「なるほど……」
そう話す寺園先輩の瞳からはハイライトが消えている。
「響くんなんてとくに張り切っちゃって、今日は部活も無いからって何人かの男の子達と一緒につづらちゃんを家まで送り届けるんだって☆」
「あ、あの……うちの姉がすいません……」
気づいたらボクは謝っていた。
別につづらもボクも悪い事をした訳じゃないけど、笑顔で死んだ目をしながら声だけ楽しそうに話す寺園先輩があまりにいたたまれなくて。
「全くだよー! おかげで先生も本格的に心配しだして大騒ぎになるし、犯人見つけたら関節の五、六箇所は外さないと気がすまないよ☆」
「……姉の為に、怒ってくれてるんですね」
寺園先輩の怒りは犯人に向けられているようでちょっと安心したけど、正直意外だった。
寺園先輩は直情的なところがあるから、てっきりつづらにもその矛先が向かうんじゃないかと思っていたんだけど……。
「違うよ! 私はこんな事になって前よりつづらちゃんがちやほやされてるのが気に入らないの! もしつづらちゃんの性癖を把握してなかったら自作自演を疑うところだよ。まったくもう☆」
ハッとしたように寺園先輩は言うけれど、もしかしてこれが世に言うツンデレなるものなんだろうか。
「でも、疑ってはいないんでしょう?」
「だって、つづらちゃん的にはかっこいい男の子にちやほやされても嬉しくないでしょう? 適当にごまかしてるみたいだけど、男友達どころか一年からの担任の名前すらちゃんと覚えられてないくらい興味薄いし」
……この人は、つづらの事をよく観察している。
「そうですね、というか、寺園先輩って実は姉に対してものすごく理解がありますね……」
「敵を知り、己を知れば百戦危うからずなんだよ♪」
にっこり笑って寺園先輩が言う。
「寺園先輩、先輩は本当に姉と付き合うつもりは無いんですよね……?」
「しないよ、そんな事したら響と付き合えなくなるもん」
まっすぐな目で寺園先輩が答える。
本当にこの人がつづらをそういう対象として見てなくて良かった。
この人とつづらを巡って争ったら勝てる気がしない。
「あ、それと響くんには尚ちゃんが男だって事、ちゃんと教えておいたよ☆」
そういえば、と寺園先輩が言う。
思ったよりもあっけないバレ方だったけれど、これ以上引っ張っても寺園先輩の機嫌を損ねるだけなのでまあ仕方ない。
「それで岡崎先輩の反応はどうでした?」
それよりも、気になるのはボクの性別を知った時の岡崎先輩のリアクションだ。
自分で言うのもなんだが、岡崎先輩は完全にボクを女の子だと思っていたようだし、できればその反応を生で見たかったところだ。
「家が近所だからこの前の休みにちょっと会った時に話したら、しばらく混乱した後、何度も聞き返してきて、それからラインで確認しようとしたけど結局出来なくて、そのまま走りこみに行っちゃったよ♪」
「かなり動揺してますね……」
楽しそうに寺園先輩が言う。
その様子を直接見られなかった事が悔やまれる。
「私も男の子だって言われなかったら気づけなかったよ~☆ 見た目だけなら完全にただの可愛い女の子だもん♪」
「えへへ、ありがとうございます」
女装を褒められるのは素直に嬉しい。
だって、それだけボクの見た目がつづらの好みに近づいているという事だから。
「そんなに可愛かったらそのうち男の子からもラブレター貰っちゃうかもね♡」
「いや~でもクラスでは男って言ってますし、流石に無いでしょう」
そう言って寺園先輩と笑い合った三十分後、ボクはロッカーに自分宛のラブレターを発見した。
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