手順10 仲間を増やしましょう
「な、何を言って……」
ボクは思わず椅子から中腰になって立ち上がってしまう。
「これでも、中学まではモテモテだったし、今でもたまに告白されるから、自分の事が好きな相手の反応や行動はわかるの。つづらちゃん、わかりやすいし」
待ってくれ、それは困る。
「で、でも、寺園先輩は男の人が好きなんですよね!?」
ボクは慌てて寺園先輩を説得しようとする。
「うん。それに、私がつづらちゃんと付き合ってもつづらちゃんには得しかないかもだけど、私に得は無いもの。だから、誰と付き合ったら一番つづらちゃんにダメージ与えられるかなって思って」
「なっ」
椅子に座ってニヤリとボクを見上げる寺園先輩に、ボクはたじろぐ。
「つづらちゃん、とっても可愛い妹がいるってよく話してるんだ。男の子だったけど。連れ子同士で血は繋がってなくても懐いてくれる、可愛い良い子だって」
そう言って寺園先輩は椅子から立ち上がって、至近距離からボクに語りかける。
「わっ」
次の瞬間、パーカーのわき辺りの布をつかまれたと思った瞬間、ボクの世界は反転してた。
気がついたら机の上に寝転がっていて、ボクは寺園先輩にすぐ隣の椅子をどけた机の上に押し倒されたのだと気づく。
「私と尚くんがくっついたら、つづらちゃん、どんな反応するかな?」
よいしょ、と机の上にのぼり、ボクの身体に跨りながら寺園先輩は言う。
「いや、そんな話を聞いて付き合う訳…………っ!?」
身体を起こして寺園先輩をどけようとすれば、寺園先輩は簡単にボクの身体を押し返してくる。
でもその瞬間ボクが寺園先輩を見上げて目撃したのは妖艶な表情なんかではなく、殺気に満ちた冷たい瞳だった。
「……冗談はこれ位にして、私、昔柔道やってたんだ。尚ちゃんは昨日、響くんと何を話してたのかな? あと、中身は男と言いつつ、尚ちゃんは男の人が好きなのかな?」
「えっ……」
笑顔で拳をにぎりながら寺園先輩は言うけれど、その目は笑っていない。
響……岡崎響……!?
その瞬間、僕の中のいくつかの点が一つに繋がる。
つまり、寺園先輩はずっと岡崎先輩が好きだったのにつづらに横からかっさらわれて、しかも昨日、その弟であるボクが岡崎先輩と店で話していたのを目撃しているらしかった。
更に、ボクが岡崎先輩を誘惑しているかのような疑いをかけられている。
「答えによっては、今後の私の身の振り方も大きく変わってくるから、早めにハッキリしておきたいなって☆」
「ボク、女の子が好きです! 男に興味は無いので安心してください!!」
全力でボクは訴える。
この状況で急に明るいテンションで話されるともはや恐怖しかない。
「そっか、なんで私が安心しなきゃなのかはわからないけど、それなら大丈夫だね☆ 実はね、さっき私が言ったずっと好きだった人って響くんなの♡ きゃっ、言っちゃった♪」
寺園先輩は拳を下ろすと、ボクに跨ったまま恥じらうように言う。
「そ、そうなんですね……」
「ちなみに尚くんはつづらちゃんが好きって事でいいのかな?」
下された拳にボクが一安心していると、寺園先輩は思い出したように僕に言ってきた。
「えっ、なんでそれを!?」
「兄弟でも部活が強豪とかこの学校でしか出来ない事があるとかじゃないと、わざわざ同じ学校に行こうとは思わないし、しかもわざわざ特待生になってまでお姉さんを追いかけてくるって仲良くてもなかなかないよ~」
「うっ……」
一般的な兄弟がどういうものなのかはよくわからないけど、そういうものだと言われると、なにも知らないボクは否定も出来ない。
「後は、さっきつづらちゃんが私の事好きって言った時の反応で確信を持ったよ☆」
「その通りです……」
……確かに、さっきの自分の行動を思い返してみると、必死過ぎだったかもしれない。
「やっぱり♪ それで、響くんとはなんの話をしてたの?」
「最近、姉に盗撮写真を送りつけてきたり机で黒魔術的な事をしてくる人間がいるので、先輩に相談してたんです」
「ああ、そういえばそんな事あったね~」
相変わらずボクに跨ったまま、寺園先輩はうんうんと頷く。
「あの、ちなみに寺園先輩はそんな事してませんよね……?」
「え、なんで私がそんな事するの?」
不思議そうに寺園先輩は首を傾げる。
「いえ、姉が自分と仲良くなりたい寺園先輩が恋のおまじない的な事をやっているのではないかと……」
「ないなー、それはないよー」
手を振りながら寺園先輩は気の抜けた様子で笑う。
後、そろそろどいて欲しい。
「ですよね~匿名でポエムとか送りつけたりしないですよね~」
「あ、それは私」
「えっ」
予想外の言葉に思わずボクは身体を起こす。
「日頃の鬱憤をラブレターっぽいポエムの縦読み、斜め読みとかに仕込んで送ったりはしてる」
「あの……じゃあ多分それ、姉にバレてます。寺園先輩の事聞いてみた時に、字が可愛いって言ってましたから」
「えっ……で、でも筆跡変えてたし……」
そんなまさか、と寺園先輩は少し焦った様子で言う。
ボクとしてはもっと別の事について焦って欲しい。
「ポエムの主は寺園先輩だと知ってるみたいでしたけど」
「……縦読みで割と辛らつな事書いたりしてたんだけど」
「普通に楽しみにしてたので、多分気づいてないんだと思います……何書いてるかは知らないですけど……」
「まって、だとするとあんな恥ずかしい内容のポエムを私が連日本気で送り続けてると思われてるの……?」
途端に見る見る寺園先輩の顔が赤くなる。
「そう、ですね」
本当に一体どんな事を書いてたんだ。
「それ悪口書いて送ってたってよりも恥ずかしいんだけど!? 今すぐつづらちゃんに教えなきゃ!」
慌てて寺園先輩はボクの身体から降りて走り去ろうとするのを、ボクは彼女の腕を掴んで止める。
「教えてどうするんですが、落ち着いてください! 岡崎先輩にこの事がバレてもいいんですか!?」
「よくない……」
ハッとしたように寺園先輩がしゅんとする。
この人は結構……いや、かなりの直情型らしい。
「えっと……つまり、ボクは寺園先輩と岡崎先輩の事を応援したらいいんですか?」
「え、うん……じゃあ、私も尚くんとつづらちゃんの事応援する……?」
話を戻して無理矢理まとめるように僕が提案すれば、寺園先輩は首を傾げながら手を差し出してきた。
なぜ疑問系なのか。
それでも協力はしてくれるようなので、そのままボク達は握手し、連絡先を交換した。
「あ、お帰り~尚ちゃん、今日は遅かったね」
家に帰れば、リビングでくつろいでいたつづらが僕に声をかけてくる。
「うん、今日は体験入部の後、寺園先輩と話してたら遅くなっちゃった」
「えっ、尚ちゃんが杏奈ちゃんをナンパ!?」
ソファーに寝転んでいたつづらが驚いて身体を起こす。
「いや、声をかけてきたのは寺園先輩の方だけど……」
「なにそれ私も混ざりたい!」
ボクが答えれば、悔しそうにつづらは言う。
「あ、そうそう、寺園先輩に確認したけど、ポエム以外は机の上の落書きとか盗撮写真とか寺園先輩じゃないって」
「え、うん……? というか、なんで尚くんがそんな事知ってるの?」
ボクの言葉に、つづらは不思議そうに首を傾げる。
しまった。
この話はつづらから聞いた事が無い情報だった。
寺園先輩のインパクトでボクまでまだ少し混乱している。
「……つづらの話題になった時に寺園先輩から聞いた」
「なに話してたの!?」
全部寺園先輩から聞いた事にすれば、つづらが詰め寄ってくる。
「んー、いろいろ」
「え~教えてよ尚ちゃん」
ボクが手を洗ったり部屋で着替えたりする横でぶーぶー言いながらまとわりついてくるつづらは、なんだかいつもより可愛かった。
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