手順9 過去を明らかにしましょう

「去年の春頃、姉が部活を転々としてたのは知っていましたが、やっぱり何かあったんですね……」

「うん、去年はつづらちゃん目当てに料理研究部へ入部したイケメン君が二人いてね、部活の先輩や同期の子も恋の予感に浮き足立ってたんだけど……」

 ボクの言葉に寺園先輩は小さく頷く。


「あっ……やっぱそんな感じだったんですね……」

「皆自分の女子力アピールみたいな感じでイケメン君達にグイグイ迫ってたんだけど、イケメン君達は構わずつづらちゃんをちやほやしてたんだ」

「色々ダメなやつですね……」

 既にドロドロの何角関係かもわからない修羅場のにおいしかしない。


「うん、それでつづらちゃんは居辛くなっちゃったみたいで、三日で部活辞めちゃったんだ」

「よっぽどアレな三日間だったんでしょうね……」

 三日坊主、なんて言葉をよく聞くけれど、部活を三日でやめるなんて相当居心地が悪かったんだろう。


「で、その後すぐに文芸部に入ったみたいなんだけど、イケメン君達がつづらちゃんに料理研究部に帰ってくるように文芸部に乗り込んだり、幽霊部員が急につづらちゃん目当てで部室に来るようになったり入部希望者が増えたりで文芸部でもメロドラマ状態だったみたい」

「あー……それは出入り禁止にされますね……」


 確かに急に人が増えて騒がしくなった。

 つづらが部活を出入り禁止なんて何があったんだろうとは思っていたけど、話を聞くと納得できる。

 本人が悪い訳じゃないけど、文芸部の人達も原因をどうにかしない事にはどうしようもなかったんだ。


「その後、手芸部にも入ったみたいなんだけど、つづらちゃんに熱を上げてた文芸部の幽霊部員っていうのが、手芸部部長の彼氏だったみたいなの。手芸部の部長さんが彼から告白されて友達からお願いしますってなった後、特に進展もなくうだうだやってたみたいなんだけど……」


「荒れますね、むしろ荒れない方がおかしいですね……」

 そもそも、彼女いるのになにやってるんだとか、色々ツッコミどころは多いけど。


「その後は風紀委員に目を付けられたり生徒会からマークされたりしてたみたいだけど、結局それぞれの組織のトップがまたつづらちゃんに熱を上げちゃって……」

「もうどうしようもないやつじゃないですか……」

 もう雪だるま式につづらに惚れる相手が増えていく。


「それからもつづらちゃんは着実にイベントをこなしていって学内のイケメンを一通りコンプリートしたんだけど……」

「イベントって……」


 もはやゲームやマンガのようなノリだ。

 まあ、あんまりにも起こった事が突拍子も無さ過ぎてそう思ってしまうのはわからなくも無いけど……。


「裏ではエグモテ女子とか言われてたよ~」

「エグモテ……?」

 未知の単語にボクは首を傾げる。


「エグいくらいにモテる、略してエグモテだよ~初めはやっかみもあったけど、直接関係無い子達からはあんなモテ方は嫌だとかだんだん言われだして、今は同情的な子は多いけど、自分や自分の身近な人間には関わって欲しくないって意見が多いかな」


「うわあ……」

 なんだか新しい言葉までできている。

 でも、エグいくらいにモテる、というのは確かにつづらにぴったりだ。


「あと、やっぱりつづらちゃんって可愛いし勉強できるしモテるし女子としては最強みたいな所あるから、悪い子じゃないんだけど、一緒にいると劣等感が刺激されるみたいで距離を置かれがちなの」


「そ、そうなんですね……」

 そういえば普段当たり前すぎて意識していなかったけれど、つづらって実はかなりすごいのでは……。


 ボクが必死で勉強して滑り込んだ特待生枠も特に勉強した様子もなく平然と手に入れて入学後も常に学年一位らしいし、容姿については今更言うまでもない。

 そのくせ運動は致命的に苦手で、ちょっと天然な所があって、ボクには色々と甘い。


「……それで、ここからが本題なんだけど」

「はい」

 ついつづらの事を思い出して顔がにやけそうになるけれど、目の前の寺園先輩が真剣な顔になるのを見て、ボクも背筋を伸ばす。


「私、中等部までは男女共に好かれてて、アイドル的存在だったんだけど、高等部でつづらちゃんが入学してきてから、ずっと好きだった子もつづらちゃんにとられちゃうし、今も友達は多い方だけど、きっと皆、私よりもつづらちゃんの方が可愛いって思ってる……」


「そ、それはどうでしょう……」

 なんだか、雲行きが怪しくなってきた……。

 というか、この人は自分の可愛さに自信があるのか無いのかよくわからない。


「私、一つでいいからつづらちゃんに勝ちたいの」

「多分、女友達の数とかなら既に圧勝だと思いますけど……」

 一般的にぶりっ子っぽい女子は同性から嫌われやすい、なんていうけれど、部活での様子を見る限り、この人は普通に同性からも好かれているようだった。


「そんな事で勝っても私は嬉しくない。そもそも、私とつづらちゃんってキャラが被ってるしもっと大きな事で勝たないと私はいつまで経ってもつづらちゃんの劣化版で差別化できないじゃない!」

 寺園先輩は熱く語る。


「いや、姉と寺園先輩だとかなりキャラ違うと思いますけど……」

 見た目も中身も既にかなり差別化されていると思う。


「わかってる! でも、私が目指して夢見てた事を全部つづらちゃんは簡単にやってのけちゃうんだもん! そんなに天然ゆるふわ愛され女子がいいの!? 胸が大きい方が良いの!? 可愛い子が好きって言うからこんなに可愛くしてるのに!!」

 そこまで聞いて、ボクは首を傾げる。


 なんだかつづらへのやっかみというよりは、特定個人への恨み言のように聞える。

 学園のアイドルだなんだと言っているけれど、この人の中で一番重要なのはつづらに好きな人をとられた事なんじゃないだろうか。


「……えっと、姉は今特に好きな人がいる訳でもないみたいですし、多分、寺園先輩の好きな人とくっつく事もないと思いますよ?」

 つづらの趣味の事は伏せつつ、ボクがそう話すと、寺園先輩は首を横に振った。


「それもわかってる。でも、つづらちゃんが誰とも付き合わなくても、相手に私を見てもらわないと意味ないもん……私はその人の一番になりたいの!」

「そう、ですよね……」


 そう言われると言い返せない。

 ボクも、つづらにボクの事を誰よりも好きって思ってもらいたい。

 そう思ってもらいたくて、ボクはずっと努力し続けてきた。


「でも、つづらちゃんの一番好きな人が誰なのか、私は知ってる」

「えっ」

「それは私」


 ポツリと呟いた寺園先輩の言葉に、ボクは固まった。

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