手順8 体験入部しましょう
「ねえつづら、前につづらが言ってた料理研究部の美少女ってどんな感じの人?」
「どうしたの? 急に」
「ちょっと気になって」
家に帰ったボクは、早速つづらにたずねてみる。
「可愛い子だよ~。明るくて誰にでも優しくて、私が入学して初めて話した女の子だよ! あと字が可愛い」
「ふーん、仲良いの?」
「毎日挨拶するし、たまにお話したりするし、私が一番仲の良い女の子だよ!」
そりゃ席が隣なら毎日挨拶もするだろうしたまに話したりするだろうけれど、それは特別仲が良い事の証明になるんだろうか……。
少なくとも知らない仲じゃないし、全く交流がない訳じゃない程度ではあるんだろうけど。
翌日の放課後、ボクは料理研究部に体験入部を申し込んだ。
今週は新入生の部活紹介期間なので、各部活がそれぞれ日程を決めて体験入部や部活説明会を行っている。
同じクラスで水色の髪の個性派ファッション女子、桃山カリンも料理研究部に興味があるらしくて、ボクと一緒に行く事になった。
「やっぱり学校で堂々とお菓子とか作って食べられるのは魅力だよね~」
なんて、カリンははしゃいでいた。
つづらの言う料理研究部の美少女、二年一組の
腰まである艶やかな黒髪をハーフツインテールにして、白いブラウスとパニエの入ったハイウエストスカートの上からピンク色のフリルの付いたエプロンを着ていた彼女は、まるでアイドルのようだった。
……つづらはああいうのが好きなのだろうか。
ボクとカリンが部室に入ると、そこにはもう何人もの入部希望者がいて、ボク達もにこやかに迎え入れられた。
「皆さん料理研究部にようこそ! 部長の寺園杏奈です♪ 今日はカルメ焼きを作るよ☆ とにかく今日は皆に楽しんでいってもらえると嬉しいな♡」
きっと文字に起こしたら、語尾に♪や☆が付きそうなテンションで寺園先輩が前に出て僕達に説明する。
そして、彼女の後に他の部員の人達もそれぞれ自己紹介する。
部長を含めて男女三人ずつの計六人。
全員二年生だった。
「活動は火曜日と木曜日の週二回! うちの部活は製菓研究部に名前を変えた方が良いんじゃないかな~ってくらいお菓子ばっかり作ってるよ♪ 作ったお菓子はノートにレシピと感想を記録して、皆で美味しく食べてるよ☆」
今まで作ったものをまとめた『お料理ノート♪』と書かれたノートを見せながら寺園先輩は説明する。
つづらの話だと、つづらが入ってきた後に女子全員がキャーキャー言い出すようなイケメンが入ってきたらしいけれど、部員の男子には女子が騒ぎそうなイケメンはいない。
部員の自己紹介が終わって今度は体験入部希望者達の自己紹介の番になる。
「井上尚……もしかして、つづらちゃんの妹さんかな?」
「つづらはボクの姉ですが、もしかして姉のお友達の方ですか?」
ボクが自己紹介を終えると案の定、寺園先輩は食いついてきた。
「うんっ、つづらちゃんとは席がお隣同士なんだよっ☆」
「そうなんですね、姉にもちゃんと女友達がいるようで安心しました」
「つづらちゃん、とってもモテるもんね~♪」
どうやらこの人もつづらの事を友達と認識しているらしい。
……まずい。
見た目も好みで女子の中でも一番仲の良い隣の席の美少女とか、もはやつづらがこの人を好きにならない理由がない。
「尚ちゃんも可愛いし、美人姉妹だねっ♡」
寺園先輩がそう話した直後、カリンが横から口を挟む。
「ですよね~これで男の子なんて思いませんよね!」
「え、男!?」
「ホントに!?」
「え……?」
直後、その場がざわつきだす。
「可愛いですよね!」
カリンは笑顔で周囲に同意を求める。
クラスでは自分から早々に男だとバラしたし、別にその事を隠す気は別にないのでいいけれど、せっかくだからもうちょっと女の子のフリを楽しみたかった。
「え、男の子!? でもつづらちゃんは……もしかして、尚ちゃんは女の子になりたかったりするのかな?」
「いえ、その気は無いです。ただのファッションです。中身も男です」
「そうなんだね、でも確かにそれだけ可愛かったら可愛い格好しないのももったいないよね☆」
寺園先輩も少し混乱していたようだけど、なんだか強引に納得してくれた。
その後は皆でカルメ焼きを作って、後片付けの後はそのカルメ焼きを食べながら『お料理ノート♪』を見せてもらいながら部活の説明や雑談をして終わった。
全体的に
「ね、尚くん、実はつづらちゃんの事でちょっと相談したい事があって……この後少し話せないかな」
部活が解散した後、寺園先輩はこそっとボクに耳打ちしてきた。
ボクもつづらの情報が入るならと二つ返事で承諾する。
「じゃあ、この後一人でこの部室の真上の空き教室に来て」
という寺園先輩の言葉により、ボクは一緒に帰ろうというカリンの誘いを断って一人空き教室へと向かう。
部室棟四階の空き教室は、教室の隅に机と椅子がまとめられている殺風景な教室だった。
とりあえず、窓際の机の上に上げられた椅子を一つ下ろしてそれに座る。
机や椅子にはまだほこりがほとんどたまってないので、この椅子と机は最近移動させられたのかもしれない。
そんな事を考えていると、教室の扉が開いて、寺園先輩がやって来た。
「ごめんね~皆の誘いを断るのに手間取っちゃった☆」
教室のドアを閉めながら寺園先輩が言う。
「いえ、それで、相談というのは……」
「うん、その前に、まずは前提として君のお姉さんが去年何をやったのか説明するね。そうしないと通じない話もあるし」
寺園先輩は僕の前までやってくると、急に真面目なトーンでそう言って自分も椅子を一つ下ろしてボクに向き合うように座る。
この後、ボクは寺園先輩の語る去年のつづらの身に起こった出来事を聞いて絶句した。
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