手順7 情報を集めましょう
「まず結論から言えば、限りなくクロだ」
ボクが岡崎先輩にラインで相談した翌週の放課後、ボクは岡崎先輩に呼び出されて現在、駅近くのファーストフード店で話している。
「……つまり、本当に姉が何者かから嫌がらせを受けているって事ですか?」
「少なくとも、俺からはそう見える」
静かに岡崎先輩は頷く。
これは一体どういう事だろう……。
ボクはつづらが言うポエムの送り主の情報を少しでも手に入れられればと思って、先輩に適当な方便を使って先輩につづらの周囲を見張らせようとした。
そしたら、ガチの嫌がらせの報告が来た。
本当につづらは嫌がらせを受けている……?
「ちなみに、姉は具体的にどんな嫌がらせをされているんですか?」
嘘から出たまことのような事態に、ボクは内心混乱しながらも詳細をたずねる。
「まず月曜日に学校に来たら、つづらさんの机に落書きされていた」
「なっ!?」
もしかしたら岡崎先輩がつづらを過保護に心配しすぎているだけなんじゃないかとも考えたけれど、その内容は思ったよりあからさまだった。
ポエムの送り主の事は一旦置いといて、どうやら本当にでつづらに嫌がらせをしている奴がいるらしい。
「これがこれだ」
そう言って岡崎先輩はスマホの画面をボクに見せてくる。
机に赤いポスターカラーのようなもので魔法陣っぽい図形が描かれ、机の四隅には燃え尽きたロウソクのようなものがある。
「……黒魔術かなんかですか?」
「わからない。だが、なぜかつづらさんは机の写真を撮った後、上機嫌でそれを片付けていた」
ため息交じりに岡崎先輩は首を横に振る。
どういう事だろう?
つづらはその事を嫌がらせと認識していない……?
「つづらさんいわく、これは相手の持ち物を使って行う恋のおまじないの一種らしい……」
「ああ、なる程……」
つまり、つづらはそのおまじないをしたのが例の料理研究部の美少女だと思った訳か。
「それと、つづらさんがラブレターをもらうのはいつもの事なんだが、その中に普段の彼女を勝手に撮影した盗撮写真だけを大量に入れたものがあった」
「犯罪ですね!」
盗撮は許せないけど、ちょっとその写真は欲しい。
「ああ……だがつづらさんはよく撮れていると笑っていて……」
「…………」
……その写真を撮影したのがつづらが想定しているらしい料理研究部の美少女だと思ってるからなんだろうなあ。
もしこれで犯人が全くの別人だったら反応が180度変りそうだけど。
「俺が思うに、犯人はつづらさんに好意を寄せているがどう接したらいいかわからないストーカーなんじゃないかと思う」
「……そうですね、ボクもそう思います」
ボクは岡崎先輩の言葉に頷く。
「つづらさんは優しいから波風を立てないよう明るく振舞っているが、このままでは嫌がらせもエスカレートしていく一方だ」
「ええ、取り返しの付かない事態になる前に犯人を探し出さなければなりません」
確かに、犯人が誰であれ、つづらがニコニコして相手からのストーカー行為を許容しているのは問題だ。
放置すれば図に乗ってくるのは目に見えている。
勝手に両思いだと勘違いした相手が突然つづらに襲い掛かってくるかもしれないし、もしかしたら相手は女とも限らない。
犯人が男でも危険だけど、犯人が女、しかもつづら好みの相手だった場合、そのままカップルが誕生してしまう可能性もある。
「つづらさんの事は俺達が目を光らせておくが万が一、尚……ちゃん……にも被害が飛び火するかも知れない。十分に気をつけてくれ」
「……岡崎先輩、別にボクの事は呼び捨てでもいいですよ?」
「あ、ああ……」
さっきまで真剣な雰囲気だったのに、急に照れだす岡崎先輩にボクは少し笑ってしまう。
「じゃあ練習してみましょう。ちょっとボクの事を呼んでみてください」
「な、尚……」
からかうようにボクが岡崎先輩の顔を覗き込むように見上げれば、岡崎先輩が気恥ずかしそうに目を逸らす。
「はい、なんですか? 岡崎先輩」
「その……何か困った事があったらいつでも俺に相談してくれ」
ニコニコしながら小首を傾げれば、岡崎先輩はチラリとボクを見る。
きっと、つづらの妹、実際は弟だけど、そのボクに気に入られてつづらに取り入ろうという魂胆なんだろう。
「心配してくれてありがとうございます。頼りにしてますね」
「ま、まかせてくれ!」
ボクが先輩の手を取って微笑めば、岡崎先輩は頬を紅潮させながら大きく何度も頷く。
そっちがその気ならボクも岡崎先輩をとことん利用するだけだ。
ボクは明日、つづらの想い人とやらに会ってみるとしよう。
翌日、ボクはその料理研究部の美少女に押し倒される事になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます