手順6 ラブレターをチェックしましょう

「ただいま~……うわ、今日は随分と多いね」

「おかえり~、長期休み明けとかは結構多いんだよね~」

 岡崎先輩と別れて家に帰ったボクは、リビングで大量の手紙を広げて仕分けているつづらに声をかけた。


 つづらはモテる。


 モテ過ぎて毎日のようにロッカーに手紙が差し入れられている。

 うちの高校は基本土足で下駄箱が無いからだろう。

 体育の時間は体操着とセットの運動靴を履くし、その運動靴も教科書なんかと一緒にロッカーで管理している。


「どんなに量が多くても、つづらはいつも全部に目を通すね」

 なんとなく気になって、ボクはつづらの前の席に座る。


「うん、基本男の子からだけど、いつ私好みの美少女からラブレターが届くからわからないからね!」

「ふーん」


 力強く答えるつづらの前に広げられている手紙に目をやれば、一枚の便箋に手短に書かれたものから可愛らしいレターセットにぎっちり細かい字で六、七枚書かれたものまで様々な手紙がある。


「毎回匿名でポエム送ってくる人とかいて面白いよ。とりあえず当日の呼び出し系のはすっぽかしちゃうと悪いから休み時間に一通りチェックして、そうじゃないのは家でじっくり読むかな~」


 休み時間ずっとそういう事してるからまた一部女子からやっかまれるんだろうなあ。

 というか、名前も書かずにひたすらポエムを送り続けるって何がしたいんだろう。


「前は男の子の名前を名指しでもう近づかないでくださいとかいう手紙が入ってたりしたんだけど、その頃は私まだ男友達の顔と名前が一致しなくて、一年の一学期に本人がいる前で普通に読んじゃったのは失敗だったなあ」

 ちょっと恥ずかしそうにつづらが言う。


「え、それどうなったの……」

 つづらや岡崎先輩の話から、つづらが普段から男友達に囲まれているのはなんとなくわかるけど、一体何があったというんだろう。


「その男の子が誰と仲良くなるかなんて本人同士が決める事で外野がとやかくいう事じゃないーって騒ぎ出して、最終的に学級会議案件になっちゃって犯人探しにまで発展して大変だったよー」


 へらりとつづらは笑う。

 大惨事だ。


「……ちなみに、その時騒いだ男友達の名前って言える?」

「えーっと、おー、岡……岡崎、祐希ゆうきくん? だったかな、普段はおちゃらけてるけど、結構熱血なところがあるんだ」

「……つづらのクラスって、岡崎って名前多い? あと、その人って運動部だったりする?」


「え? 一人だけだったと思うけど……それに祐希くんは軽音部だよ、確か。髪が赤くて舞台で映えるねーとか言ったような気がするし」

 どうやらつづらはいまだに自分の男友達の名前も正確に覚えていないみたいだ。


「へ~……」

 でも、つづらは届いた手紙を逐一休み時間に確認していて、しかもそれを男友達がしょっちゅう覗き込みに来る事もあって、あんまり直接的な罵倒や文句は届かなくなったんだろう。


 つまり、つづらは相変わらず名前もちゃんと覚えられない程、男に興味はないし、この様子だとまだまだ親しい女友達なんて出来なさそうだし、これはボクにとって好都合だ。


「そのうち可愛い子から手紙来るといいね」

 ボクは部屋に荷物を置いて着替えようと立ち上がる。

「うん、まあ……」

 でも、何気なく振り向いたらつづらが頬を染めながら俯いている。


 どこかもじもじした様子でつづらが言う。


「えっ、もう来たの……?」

「でも、まだどうなるかわからないし、もし上手くいったら報告するねっ」

「待ってよ! 気になるからそこで話を終わらせないでよ!」

 そもそも、上手くいった後だと手遅れだ。


「えー、でもなあ……」

 渋るつづらに、ボクはあまり使いたくなかったけれど、最終手段を使う事にする。

 静かに席を立ち、前の席に座るつづらの前までやってくると、膝をついてしゃがみこみ、悲しそうな顔でつづらを見上げる。


「ボク、誰にも言わないよ? そんなに信用ない……?」

「~~っ! そんな事ないっ! 尚ちゃんは良い子だもの!」

 そう言ってつづらは僕を強く抱きしめる。


 こうやってぶりっ子してお願いすると、大体つづらは僕の希望を聞いてくれる。

 ただし、これは使う度にどんどんつづらの中でボクが頼りない甘えん坊な弟みたいな認識になっていくので、できれば避けたいのだけど、背に腹は変えられない。


「それで、つづら好みの美少女からラブレターが来たの?」

「来たっていうか、いつもペンネームでポエムくれたり贈り物したりしてくれる人がいるんだけど、その人に心当たりがあって……多分私の隣の席の……料理研究部の女の子なんだけど……」


 料理研究部というと、確かつづらが入学して真っ先に入った部活だ。

 前に隣の席の子がすごい可愛いとか前に言ってたけど、そういう事か。


「まあ多分その子じゃないかなあ、とは思ってるんだけど~うふふ……」

「それ、本当にその子なの?」

 この場合、つづらの勘違いという可能性も否定できない。


 というか、もし本当にそのポエムの送り主がその子だとすると、つづらの好み的にボクに勝ち目は無さそうなので例え本当に心当たりの子がつづらに思いを寄せていたとしても、全力でその真実を隠蔽したい。

 ボクは自分の部屋に戻ると、早速岡崎先輩にラインでメッセージを送る。


 尚:実は姉が陰湿な嫌がらせを受けているかもしれません。姉本人は否定していますが、姉はそういう事を隠して一人で溜め込むタイプなので……


 ボクがメッセージを送ると、すぐに岡崎先輩から気をつけてみるという返事がきた。

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