手順5 協力者を作りましょう
「なあ、マジで男なのか!?」
「うん。生徒手帳見る?」
後ろの席のガタイのいい男子が聞いてくる。
「本当に男の子なんだ~、井上くんってすごい可愛いね」
「ありがとう」
ボクが出した生徒手帳を見た女の子が驚いたように声をあげる。
「ねえ、井上くんってもしかして、二年にお姉さんとかいたりする?」
「うん、井上つづらはボクの姉だよ」
金髪縦ロールのロリータファッションを着た女子が聞いてくるのでボクは頷く。
「美人姉妹じゃん」
「よく言われる」
「よく言われるのかよっ」
チャラついたお調子者っぽい男子が笑いながら言ってきたので、ボクも笑って返す。
この手の冗談は小さい頃から親戚やら近所のおばちゃんやらによく言われてきた。
「なんで女の子の格好してるの?」
「ファッションかな」
「わかる~! やっぱりせっかく服装が自由なんだし自分が一番可愛いって思った格好したいもんね!」
水色の髪をしたカラフルなファッションの女子がうんうんとボクの言葉に頷く。
別にそういう訳でもないけれど、片思いしてる姉の趣味に合わせてこんな格好してると正直に答える訳にもいかないのでとりあえず笑っておく。
入学式の後、クラスに移動しての自己紹介で、ボクは女の子らしい声で適当な挨拶をした後、自分が男である事を付け足した。
どうせ隠してもそのうちバレる事なので、それなら最初から堂々と開き直ってしまおうとボクは考える。
最初からイロモノ枠、ネタ要員という役に徹してしまった方がほとんど中等部からの持ち上がりだというこの学校ではとっつきやすくなって早く馴染めるだろうというというボクの目論見は見事当たり、今に至る。
大人しくしていても外部からの編入生、入学以来、学年問わず異常なモテ方をしている井上つづらの弟、しかも女装してるなんて、それだけで絶対目立つのだから、むしろこうした方がまだ平和な学園生活が送れそうだ。
……そう思っていたのだけど。
「井上尚というのは君か」
「はい、そうですけど……」
入学式の翌日の始業式、部活紹介やら教科書の購入やら、諸々のイベントがやっと終わって帰ろうとしていた時、ボクは声をかけられた。
声の方を振り向けば、身長180センチ以上ありそうなかなり体格の良い男子生徒が立っていた。
「この後ちょっと付き合ってくれないか」
「はい……」
絶対つづらがらみだよ……という妙な確信を持ちながら、ボクはその先輩の後についていく。
「俺のおごりだ。アイスでもパフェでも好きなの頼め」
「じゃ、じゃあ、このバニラアイスを……」
連れてこられた学校近くのファミレスで、ボクは目の前に座る先輩の様子をうかがう。
短髪で染められていない髪にがっしりした体格からして、体育会系の気配がする。
あまり日に焼けていないところを見ると、室内スポーツ、柔道とか剣道とかだろうか。
切れ長で鋭い目つきだけど顔は整っているのでモテそうではある。
「えっと、姉のお友達の方でしょうか……?」
「まあ、そんなところだ。俺は
「はあ……」
ですよね~、なんて思いながらボクは頷く。
「現在、つ、つづらさんは誰かと付き合っていたりするのだろうか……? その、彼女は随分と男の友達が多いから……」
妙にそわそわした様子で岡崎先輩が聞いてくる。
「いえ、特にそういう話は聞いていませんが……」
「そ、そうか! ちなみにつづらさんは家で俺の事とか話していたりしなかったか?」
ちょっと嬉しそうな反応からして、この人もつづらに気があるのだろう。
というか、わかりやすい人だなあ。
「いえ、岡崎先輩の名前は今初めて聞きました」
「姉妹同士、好きなタイプとか気になる相手の話とかはしないのか……?」
「姉はあまり恋愛に興味が無いようで、そういう話はあまりしないですね」
姉妹同士、という言葉にボクはちょっと引っかかるけれど、話の腰を折らない為に今はスルーする。
「そうか……なら普段はどんな話をしてるんだ?」
「……姉は、女の子のお友達がほしいと言ってました」
「つづらさんがそんな事を……」
「姉は、クラスの女子から孤立しているのでしょうか……?」
せっかくなので、つづらのクラスでの様子を聞く良い機会だ。
「……いや、確かに特に仲の良い女子生徒はいないかもしれないが、表立って避けられたり無視されたりという事は無かったと思う」
「そうですか。姉は昔からモテるタイプで、一部の女子からよくやっかまれたりしていたものですから、心配で……」
実際、つづらが心配なのは本当だ。
学年の違うボクじゃどう足掻いてもつづらと同じクラスになれない。
「なるほど、そういう事なら俺がよく目を光らせてつづらさんを守ろう!」
「いえ、そこまでしていただかなくても……」
「いや、人として同じクラスの仲間がいじめられているかもしれないなんて、見過ごす訳にはいかない!」
急に岡崎先輩が張り切りだすけど、下心が丸見えだ。
「まだそうと決まった訳では……あ、そうだ。岡崎先輩、連絡先の交換しましょうよ。それで、クラスでの姉の様子をボクに教えてください。やっぱり姉の事は心配ですから」
「ああ、わかった!」
でも、つづらのクラスでの様子を知る良い機会だ。
ボクが提案すれば、岡崎先輩は二つ返事でスマホを取り出す。
「でも、姉にこの事がバレると姉の事ですから変に気にして負い目を感じるかもしれません。なので、この事はボクと岡崎先輩の二人だけの秘密にしてくれませんか?」
それと一応口止めもしておく。
「了解した。君は、随分と姉思いなんだな」
「大好きな姉ですから。それと、尚でいいですよ」
「あ、ああ……尚……ちゃん」
ボクが名前でいいと言えば、照れたように岡崎先輩がちゃんづけでボクを呼んでくる。
「あはは、後輩相手にそんなに固くならないでくださいよ」
「すまない、部活の後輩なら気兼ねなく名前で呼べるんだが、いままであまり年下の女の子と接する機会がなくて……」
やっぱり岡崎先輩はボクの事を女だと思っているようだ。
そりゃ、この格好なら勘違いしてもおかしくないけれど、岡崎先輩は最初から僕の名前を知っていたわけで。
「……先輩、姉から何かボクの事聞きました?」
「可愛い妹だと、よく話しているよ。本当に仲が良いんだな」
「はい、ボク達とっても仲良しなんです!」
ボクは笑顔で答えた。
別に今、男だと言っても問題なさそうだけど、つづらが僕の事を妹だと言っているのなら、しばらくそれに乗っかって、いつ先輩が気づくのかを見てるのも面白そうだ。
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