手順2 進路を決めましょう
来年はボクも受験を控えた一月、つづらは長い歴史を持つ名門私立高校に特待生として推薦合格した。
つづらになんでその学校を選んだのかと尋ねれば、
「だって桂秋学院が学校説明会に行った時、一番私好みの美少女が多かったんだもん」
と、高校に行ったら彼女作る気満々の答えが返ってきた。
調べてみたら学費がとんでもなく高くて、一定以上の成績で学費全額免除になる特待生でもなければ、かなり裕福な家庭でないと通えないだろう。
……つづら好みの正真正銘のお嬢様もきっとたくさんいるに違いない。
「彼女作る気満々じゃん……」
「え、だってそりゃ私だって恋人とか欲しいもん。中学だとそういう相手できなかったけど、高校でこそ作るんだから」
思わずボクが呟けば、当たり前だろうと言わんばかりにつづらは首を傾げる。
「女子校も考えたんだけど、オープンキャンパスに行ってみたら、なんか私の求めてたのとノリが違うんだよね……共学で競合相手に男の子がいるって所がネックだけど、私、頑張る!」
「む、無理はしちゃダメだよ……?」
というか、失敗して欲しい。
そんな事は口が裂けても言わないけど。
「うん、その時は彼女と三人で女子会しようね!」
「そ、そうだね……」
女子会の定義って一体……。
「彼女が出来たらね~一緒に出かけて可愛い服を互いに見立てたり、おしゃれなカフェでお茶会したり、家でお泊まり会なんかして、それから……」
ニコニコと楽しそうに彼女が出来たらしたい事を話すつづらは可愛かった。
ボクだったら、今すぐにでもそのやりたい事全部叶えてあげるのに。
だけど、多分つづらが僕に望んでる事はそういう事じゃないのもわかるから、結局ボクはただニコニコ笑ってつづらの話を聞いている事しかできなかった。
「聞いて聞いて、教室に行ったら席が出席番号順だったんだけど、隣の子がすごく可愛いの!」
四月から、つづらは桂秋学院へと通い始めた。
「学校で友達出来たよ~男の子だけど、中等部の頃から女の子にも人気あるみたいだし、女の子紹介してもらえないかなあ……」
ボクが尋ねれば、つづらはその日学校であった事を色々と報告してくれる。
「部活どうしよう……運動部のマネージャーにやたら誘われたけど、男の子ばっかりじゃなあ……運動も苦手だし、文科系の女の子が多い部がいいなあ」
入学した初めのうちは、つづらも毎日目を輝かせながら学校の事を話してくれた。
だけど……。
「料理研究部に入ったよ!」
その三日後。
「なんか私の後に男の子が入ってきて女の子が皆キャーキャー言ってる……」
「料理研究部はやめて、文芸部に入ったよ!」
更に五日後。
「私が入った途端急に人が増えて騒がしくなったと思ったら、なんか文芸部に出入り禁止にされた……」
「今度は手芸部に入ったよ!」
四日後。
「なぜか私が先輩の彼氏? を取った事になって今揉めてる……むしろ私は先輩と仲良くなりたいのに……もう手芸部に顔出せない……」
つづらは部活に入部するごとに毎回何かしらの問題を抱えて一週間もしないうちに退部しているようだった。
そして、最初は気づかなかったけれど、しばらくつづらの話を聞いているうちに、段々とどうしてそういう状態になっているのかわかってくる。
「男の友達はいっぱいできたけど、女の子は挨拶する程度の子が何人かしかいない……」
この言葉が決定的だった。
どうやら、つづらは相変わらず男子からかなりモテているようで、そのせいで他の女子から敬遠されているようでもあった。
きっと、自分の好きな男子がつづらに夢中でくやしいとか、つづらが入学早々男子達からちやほやされて面白くないとか、そういう事だろう。
……需要と供給が致命的に噛み合ってない。
多分、これからもつづらは男友達から散々迫られるだろうし、女子には余計敬遠されるだろうし、下手したらいじめにまで発展するかもしれない。
かといって、そんな追い詰められた状況でもし姉の味方が現れたら、それが男でも女でもコロっといってしまうのでは……。
「ダメだ……絶対に阻止しないと……」
「え、尚ちゃん? 急に怖い顔してどうしたの?」
良くない想像がボクの頭をグルグルまわる中、つづらがどこか心配したようにボクの顔を覗き込んでくる。
「つづら! ボクは何があってもつづらの味方だからね! いじめなんかに屈しちゃダメだよ!」
「え、大げさだなあ~尚ちゃんは。別に女の子の友達は全くいない訳じゃないし、男の子入れたらむしろ友達は多い方だし、全然大丈夫だよ」
ボクが話せば心配しすぎだとつづらは笑う。
その男友達は多分全員下心があると思う。
そして、数少ない女友達とか、そっちの方がより深い関係になりそうでこわい。
我が家の経済状況だとボクも特待生じゃないと桂秋学院には通えないし、偏差値だってかなり高い学校だけど、これはもうそんな事を言っている場合じゃない。
つづらは昔から運動は出来なかったけど、勉強はおそろしくできた。
その日からボクもつづらと同じ学校へ通うべく、猛勉強を始めた。
翌年、ボクは執念でつづらと同じ桂秋学院に無事特待生として合格して通うことになる。
……女装で。
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