第7話 夕焼けの思い出

『もうそろそろ限界です。

 もう命も尽きるでしょう。

 けれど、成長していく貴方を見るたびに、いつまでもこの日々が続くことを祈りたいという考えが、頭をよぎります。

 嫌だ、まだ一緒に生きたい。

 怖い。嫌だ、逃れられない。


 嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。



 時間がない。時間がほしい。

 だめだ、こんなことを思ってはいけない。怖い、だめだ、抗えない。

 なぜ私なのでしょう。なぜ私ばかりこのような目に合わねばならないのでしょう。

 こんな醜いことを考える自分を知りたくはなかったのに!こんなはずではなかったのに!

 もう嫌だ!

 全て投げ出して、燃やしてしまいたい。

 悪いのは私ではないはずなのに。

 お願いだからそんな目で見ないで!私はそんな人間ではない。自分が生き残れるのなら、平気であなたを差し出せるような、愚劣で卑怯な人間なのです。

 もう許して。楽になりたい』



 だいぶ日も暮れてきて、お日様もだんだん色を変えてきた。

 まだ青い空の中に、優しい光がさして、少年の心を優しく包む。

 海もより鮮やかに光った。

羽を休めていた海鳥も、群れをつくって巣に戻る時間なのだろう。

 一羽、また一羽と、茜色に染まりつつある大空に羽を広げ飛び立っていく。時折屋根の上を旋回しては、振り絞るような声で「クワァー」と鳴いた。

 

 少年は、いつか父と話したことを思い出した。

 西日の差しこむ家のベランダで、沈んでいくお日様を見ながら、父にこう言ったのだ。


『ねぇお父さん。なんで夕方は外がオレンジ色になるの?』


 だって不思議ではないか。

 昼の空はどこまでも真っ青で、夜になると真っ黒になるのに、どうして日か沈む前の数時間だけ、こんな鮮やかなオレンジ色に染まるのか。

 父は少し困ったように考え込むと、ひどく優しい顔で『そうだなぁ。それはお日様がほっとしたからかもしれないなぁ』とつぶやいた。

『ほっとしたらオレンジ色になるの?』

 不思議そうに尋ねる少年を見た父は、愛おしそうに目を細める。

『たぶんね。お日様は一日中頑張って、人のためにいつもニコニコしているだろう?そうしてみんなのことを幸せにしてくれている。けれどそれは簡単なことじゃない。だからお仕事が終わって、やっと休めるって時に、つい気が緩んでほっとするから、あんなに優しい色になるんじゃないかな』

 

 その声は少年に向けてと言うよりも、自分に納得させるようなつぶやきに近かった。

 そんな父の横顔も、夕日と同じオレンジ色に染まっていた。

 優しい瞳で夕日を眺める父に向かって『なんだかお父さんみたいだね』と言ったら、父は嬉しそうに、少年の頭をくしゃりと撫でた。

『痛いよ、お父さん』

 そう言って、少年が父のゴツゴツした手をどけると、キッチンから『あらあら』という優しい母の声がした。


 昼のニコニコお日様はお母さん。

 夕方の優しいお日様はお父さん。


 どっちも大切で、どっちも本当に、本当に大好きだった。

 けれど、今は片方がなくなって、お父さんの優しさも、だんだん弱くなっていた。

 父の仕事に何かあったのだろうか。

 噂では、別れたのは父のせいだと聞いていたが、父や母からは何も聞かされていない。

 少年が聞いてはだめなことなのか、聞いてもわからないと思われているのか、いや両方か……。

 幼すぎる少年は、突然幸せが崩れ去っていくところを、黙って見ていることしかできなかったのだ。

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