第2話 先生
お金をできるだけ使わないようにと、少年は川に沿って歩き始め、見知らぬ町の見知らぬ駅にたどり着いたのだ。さすがに疲れてベンチに座ったが、一度座ってしまうとなかなか立ち上がる気にはならなかった。
もう何時間こうしているかわからない。
もう何本も目の前を電車が通り過ぎた。
少年が相変わらず静かに海を見ていると、小太りの男が一人、ベンチに腰かけてきた。
その体重で、ベンチがギシリと音をたてる。
よほど暑いのか、扇子をパタパタと振るその手の甲にも、大粒の汗が噴き出ていた。
少年がその様子を隣でじっと見ていると、男は「なんだ」と言うように、不機嫌そうな顔を少年に寄せてきた。
少年はその男に聞いた。
「あなたは一体どこに行くの?」
男は太い眉毛を怪訝そうに寄せると、面倒くさそうに答えた。
「学校に戻るんだよ」
「学校?夏休みなのに?」
少年が聞いてみると、その男はため息を一つ吐いて、呆れたようにこう告げた。
「いいかい。君は夏休みかもしれないが、私たち教師は違う。君がこうして遊んでいる間にも、大人はこうして働いているんだ」
「……大変なんだね」
「ですね」
すかさず男が言ったので、少年は逆らうことなく「ですね」と訂正した。
それに満足したようで、男は扇いでいた扇子をぴしゃりと閉じ、その先を少年に向けてこういった。
「そうだ、大人は子供の何倍も大変なんだよ。だから大人には敬意をもって接するべきなんだ。君もお父さんやお母さんに対しての感謝の気持ちを忘れないようにね」
そういうと男は「忙しい、忙しい」とつぶやいて、何度も何度も時計を見ると、やってきた電車にとび乗り、トンネルの向こうへ消えていった。
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