第28話「大地のリンゴ酒は始末が大変」
最近の住宅は換気が面倒てね……法律で、戸建てでもマンションでも新築するときには24時間換気システムを付けるのが義務なんです。
小型の換気扇がずっと回っているんです。シックハウスの対策が目的だったのですけど、建材が脱ホルムになるのか早かったから空気質の改善や結露防止が主目的になっちゃった。
それでニオイの問題も改善すると思うでしょ? そうは行かなくて、逆に増えてるんです。
家がね。極端に言えば昔はただの箱みたいなモノだったのに、今は丸ごと機械設備に変身しちゃったような状態。
だからみんな使い方がわからない。まあ当然ですよね、「家についてる○○の使い方」じゃなくて「家全部の使い方」って難解な話になるから。そんな複雑な取扱説明書なんて誰も読まないし、読んだって理解できない。
私が昔バイクに乗っていた頃には、新しいバイクを……新車だろうが中古だろうがまず最初に『サービスマニュアル』と『パーツリスト』を取り寄せたんですよ。普通そんな物買わない、ショップが使う物だから。
こっちは整備に関しては何から何まで自分でやるつもりなので、部品の番号がわからないと注文できない。だからパーツリストは、ないと話にならない。パーツリストは面白いですよ、バイク丸ごとの解剖図みたいなものですから。
そんなもの普通に読み解いていたから、ビルなんかの図面も読めます。結局ページが違っていても、どことどこが繋がっているのかを理解できればシステムがわかるから。
何と何が揃うと何が起るか。それが起ることを知って、起った現象を現場から拾い出して、それが起ってしまった状況を推理してトラブルの原因を探り出す。それがニオイ事件の謎解きです。
だから、マイタケの時みたいにニオイをたどるのと、ニオイが出た原因を推理して調べるのを同時にやるのですよ。
また刑事コロンボネタですけど、『祝砲の挽歌』ってお話がありまして。私立の軍学校で校長である退役大佐が、兵学校をやめて共学の短大に変えようとしている理事長を殺すのが事件なのですけどね。
学校の象徴でもある大砲にトラップを仕組んで、爆発させることで事故を装ったのですけどね。空砲だけどコルダイト火薬の代わりにコンポジション4爆薬を装薬に詰めて、方針に掃除用のウエスを詰めておいたんですね。そりゃ大砲吹っ飛ぶ。
ちなみにその大砲はM1897野砲って、日本なら明治時代にフランスで作られた大砲のようです。アメリカだと88ミリ高射砲だろうが40ミリボフォース砲だろうが個人で持って撃てるってのが凄いですね。
電気式じゃない雷管でC4爆薬がうまいこと爆発するかどうかが気になりますけど、大佐だからその辺は工作したのでしょうね。
まあそこは置いといて……ここで事件を解く鍵になるアイテムがありまして、学生が寮で密造しているリンゴ酒なのですね。
リンゴを皮ごと潰して搾れば、条件さえ整えたら発酵してシードルになりますから。それをやっていたのだと思います。たぶんガロン瓶に詰めて、夜の間だけ窓際に吊して発酵させる作り方だったようです。
酵母を別に入れなくてもいいリンゴだからできる密造酒です。ビールだと大麦を発芽させてから加熱して発芽を止めて、破砕してから発酵なんてもの凄い手間がかかります。
そう言えば映画の大脱走で収容所の捕虜たちがジャガイモで酒を作るシーンがあったのですけど、あれどうやったんだろ? ジャガイモのデンプンを糖化させる酵素は何を使ったのか。
燃料だって限られていますから……木材は脱走用トンネルの枠に使うし、石炭だって割り当てが決まっているでしょうから。ジャガイモを生のまま摺り下ろして、貰ってきたか盗み出したパン用のイーストで発酵させて蒸留して……イモ焼酎ですけどヨーロッパだからアクアビットもどきか。
鍋に配管を繋いだような蒸留器が『ポーチン』って呼ばれるアイルランドの物によく似ていて、『ポーチン』ってのは蒸留器から酒が垂れ落ちてくる音のことだそうです。日本じゃ芋焼酎を蒸留する装置が『チンタラ』って名前で、発酵液をチンチン湧かして上の方から蒸留液がタラタラ流れ落ちてくる様子ですね。
でも音の割に液が出てくるのは遅いから「チンタラしてんじゃねぇー!」って語源になったとか。
イモの発酵液のニオイ? 嗅ぎたくはないですね。だってそれから抽出したのが芋焼酎ですよ。あのクサい酒の原液なんてどんなニオイがするのか……ちなみに、焼酎の工場から出る廃液をたい肥に混ぜこんで処理するなんて無謀なプロジェクトの臭気対策を頼まれて熊本の人吉まで行ったことがありますけど、二度とあんなことに係わりたくないです。
はい? ああ、大失敗でしたね。アンモニアを大量に含んだ蒸気がドーンと発生しましてね。工場からは水蒸気と二酸化炭素しか出さない計画だったそうですけど、工場の中がビショビショになるほどの水分が処理しきれなくて工場がパンクしたらしいです。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます