第22話「カレーなるニオイ消し」

 あ、おはようございます。今日はまた両手に紙袋持って、何か買い出しですか? 買い出しは買い出しでも、香りと消臭の? あの……そこに……そんな物机に並べられたら仕事が……

 しかし凄い数ですね……はあ、昨日一日かけてドラッグストアとディスカウントと、スーパーと回ったんですか。

 どれが効くかって? もしかして、この間のタバコのことで消臭に興味持ったとか? それ聞くためにわざわざこんなに買ってきたんですか? いくらニオイに興味が出たからって、急に難しいところに踏み込みますねぇ。いやマヂで。

 え~とですね……消臭アイテムは全て使い方次第なんですよ。あ~それ開けないでください。アメリカ製のは激しい効果ですから。ええ、ですから……。効くと言えば全部効くし。効かないと言ったらどれも効かない。

 あ~、怒らないで怒らないで。だから使い方だって言ってるでしょ? その、昨日一日の労力に敬意を払って説明……だから、片っ端から開けちゃダメだってば!


まず、『消臭って、いったい何なのか』そこから話しましょう。「消臭だからニオイを消す」それは間違いありません。それじゃこの質問に答えてください。

「『臭い』って思う感覚は、みんな同じく感じますか? 良いニオイと悪いニオイの境界線って、どうなっているのでしょうか?」

 はい。そうですね。人間の鼻の感覚は一人一人違いますから、何かの物質で『臭い』って感じる濃度はそれぞれ違います。一応『閾値』って、ニオイを感じるか感じないかの基準になる一線の濃度は測られていますけど、それも平均ですから絶対だってわけじゃありません。

 そして。ニオイの好みは……はい、そうですね。人それぞれです。経験によって良いニオイにも悪いニオイにも変わってしまいます。だんだんニオイについてのこと、詳しくなってきましたね。

それを頭に置いておかないと、『ニオイを消す』と言う難しい問題に踏み込んでいくことはできないのですよ。

 前にお話ししたと思いますが。男性と女性では嗅覚の感度も違えば、ニオイの質の好き嫌いも違います。

 で。生まれ育った所で常に漂っていたニオイには、人は感度が鈍くなるし、あまり不快な感じを抱かない。それはどんなニオイであっても成り立つわけですね。逆に、嗅いだことのないニオイいは本能的に警戒感を持ってしまうので、ニオイ質に関係なく『不快』と感じてしまうことが多い。

 はいそれではここで問題です。「消臭剤はどんなニオイを消したら良いんでしょうか?」

 『悪いニオイ』ですか? では悪いニオイって何でしょうか?

はい。もうタイムオーバー! いくら考えたって答えは出ません。正解は、『今と違うニオイ』です。

 それはどんなニオイかって? だから違うニオイ。良いも悪いも、自分が馴染んだニオイがOKで。それまでと違うニオイであって、本人が受け容れられなかったらダメです。

 ウナギのかば焼き、お好きですか? 焼き肉とか、パンが焼き上がるニオイとか。まあその単体のニオイ、どちらかって言うと好む人の方が多いでしょうね。でもそれを『24時間嗅がされっぱなし』とか、『何を食べていても焼き肉フレーバー』とかになったら。どうですかね? 拷問? そうですね。嫌いな犬のニオイを嗅がされるご婦人の気持ちが分かるってものです。

 ここまでが人間側の問題、ここから話しは化学になります。学術的に、ニオイは工学の世界で扱われているのですよ。何しろ……え? 難しい話しは後?

 はいはい。それじゃ、まず『消臭剤って何なのか』ってところから簡単にお話ししましょう。


 市販されている消臭剤は、大きく区別すると3つに分けられます。まず、一番大量に出回っている『芳香剤』です。これはアロマオイル……。まあ天然も合成もありますけど、そこらで売っている製品の99パーセントは合成でしょうね。

 まあ、芳香剤はそう言ったいろいろなオイルの香りを発散して、『強い良いニオイで悪いニオイを感じられなくしてしまう』のですね。私たちの業界では「マスキング」と呼びます。

 そうですね。今は『香りがない芳香剤』ってのもありますね。あれも成分は緑茶ポリフェノールだとか、極めて香りの少ない精油をブレンドして製品の香りを最小限に調整しているようです。実は香りがある芳香剤でも、無香の消臭剤と同じように『マスキング』にならずに悪いニオイを消せるのですよ。

 これは『感覚中和』っていう効果でしてね。悪いにおいとある特定の香りが混ざり合うと、悪いニオイも良いニオイも消えてしまうことがあるのですよ。

 いえ、化学反応じゃありません。機械で物質の濃度を測ると、全然減っていないんですよ。不思議なことにそれでもニオイを感じなくなります。

 これは不思議と言えば不思議ですけど、実は日常生活でいつも経験していることですよ。イヤなニオイに植物の香りを混ぜ合わせて消すってのは。それは料理です。豚肉にショウガ、お刺身にワサビって使いますよね。鴨にネギってのもそうかな。茄子にカラシはちょっと違うか。

 お刺身のワサビは、あれ別にワサビの味ばっかりになっちゃうワケじゃありませんよね。ちゃんと魚の味はして、生臭みが消えて美味さが増します。ショウガも豚肉の臭みを消して、ショウガそのものの味とかにおいはそんなに感じない。これが『中和効果』です。

 ちなみに料理で『マスキング』を説明することもできまして。それは『カレー』ですね。あれはほとんど香辛料の香りばっかりになってしまいます。芳香剤が効きすぎてしまった状態ってのがそれですね。

 ご存じだかも知れませんが。日本で「カレー」と言っている料理は、イギリスで開発された『カリーミックススパイス粉』が大元です。つまりイギリス人の口向けにアレンジしたものをさらに日本人向けにアレンジし直していますから、インドのカリーとは全く似ても似つかないものだそうです。

 ただし「あれはカレーと呼べるものじゃないが、インドの料理よりるかに美味い」とおっしゃるインド人もいるそうです……何かまた食い物ネタになってきたな。


 つづく

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