第10話「タバコのニオイを化学して……核爆弾?」

 タバコのニオイの話を聞いているだけで気分が悪くなってきた? そんな時は柑橘にちょっとミントが入ったような香りを嗅ぐと良いですよ。さっきの引き出し、スプレーと一緒に小さいガラスの容器が入っていましたでしょ。蓋にやっぱりアルファベット2文字書いてあるのが……その中に「CM」ってのがありますから、蓋を開けて中をひと嗅ぎすると良いです。

 どうです? さわやかな良い香りでしょ、シトラス+ミントです。それ略してCM。あちこちの電車のエアコンの中に入っていて、車内の消臭とかに使われているそうですよ。その白い粒はパルプ、紙です。それにブレンドしたオイルをしみこませています。液体じゃないのでどんな場所にもそのまま入れられるところが重宝されているようです。

さっき並べた化学物質は全部化学物質でね、濃度にもよりますけどほぼもれなく体に悪いです。そのような物質を取り込まないように体はちゃんと防御反応を行うようになっています。意識しなくても呼吸が浅くなったり、咳き込んだりとかね。

 何でたばこのニオイで気分が悪くなった時にシトラスがいいのか? タバコ臭の不快感を和らげるには「甘めのグレープフルーツなど柑橘類の香り」が効果があるみたいです。

私は出張先のホテルでたばこ臭い部屋にあたってしまった場合、スーパーでオレンジなんかを買ってきて部屋で食べて、皮をそこらに置いておくのですよ。最近は禁煙ルームが増えてきたのであまりやりませんけど。


 どうです? 上着のタバコ臭取れましたか? 内側の汗臭さが残ってる? そしたらね、「HS」ってスプレーがありますから、それ吹いてみてください。ええ、何でもありますよ。ニオイだけで仕事してますからね。

 いや最初からタバコ臭が付かない薬って言われても。普通の布でできた服を着て、たばこの煙もうもうの部屋に入って「わ~、すごーい!におい付いてな~い!」なんて製品やアイテムがあったら私も欲しいくらいですよ。

 でもそんな物質はとんでもない成分でできているだろうから私は使いたくないです。少なくとも製品安全データシートを全部確認するまで使いたくありません。

 多少でも付きにくくしたいなら、衣類の表面をテフロンコーティングでもするしかありませんね。『防水スプレー』って、スポーツ用品とかで売ってるじゃないですか。あれは内容物見ると『フッ素樹脂』と書いてありまして、それがテフロンコート剤です。

 あー。『テフロン』ってのはデュポン社の登録商標でしてね、物質の名前は“ポリテトラフルオロエチレン”って言うんです。舌をかみそうだから普通“PTFE”って略されてます。

 そう言えば『デュポンのライター』なんての、今でも高級品ですね。“ジェームズ・ボンドモデル”なんて、オートマチックピストルみたいなデザインで、タバコ吸わないのに欲しくなっちゃいます。

 デュポン社は、最初は火薬作っていました。第一次大戦で火薬がごっそり売れて財を成して、それを元手に化学の研究をやっていろいろ発明したんです。ちょっと前までエアコンに使われていたフロンガスもデュポンの開発ですね。

 デュポン社がそうなのか、アメリカの社会全体がそうなのか知りませんけど。昔どこかの大学生が『テロリストによる核兵器テロの可能性』で卒論を書こうとして、素人核爆弾の設計したそうなんですね。

 どっかからプルトニウムを強奪してガレージにあるようなもので作れることを証明したかったのですが、核分裂に必要な球状の衝撃派を何を使って発生させたらいいのかが解らない。で、爆薬のことならデュポンだって思いついてお客様相談室に電話したそうです。

 ……いや『爆薬相談フリーダイヤル』なんてのがあるかどうか知りませんけど。

 あ、火薬と爆薬は別物ですよ。火薬は危険で爆薬は安全です。と言ったら皆さん嘘だと思うでしょうね。でも火薬は火を付けたら凄い勢いで燃えて量が多かったら爆発しますけど、爆薬は固形燃料みたいに大人しく燃えます。実際軍隊じゃ非常時で他に燃料がない場合には爆薬燃すくらいです。それに火薬は衝撃で爆発しますけど、爆薬は車で轢いたって爆発しません。

 それで……大学生が「研究のために高密度の球状衝撃波を生成させたいのだけど、どうしたらいいか?」と聞いたら、デュポンは「だったら球体の容器の内側にウチの○○って爆薬を隙間なく詰めれば良い」って答えたそうです。知ってる人間が聞けばそれは核爆弾用の爆縮レンズ以外の何者でもないのですけど、当時はまさか大学生が原爆を設計するとは考えもしなかったのでしょうね。

 ええ。その大学生はそれで見事に単位を取って、論文はめでたく国防総省の機密扱いになったそうです。確か計算によると4~5メガトン相当の威力だったとか。

 え~と、何でタバコが核爆弾の話になったんでしょうね『テフロン』から脱線したんだな。テフロンと言えば、一番身近なのが焦げ付かないフライパンですね。今は業務用じゃない限りフッ素樹脂コートが普通になっちゃいましたよね。

 あの樹脂の特性として、“摩擦係数が低い”ってのがあります。モノによっては氷より低いものもあります。つまり足を置こうとしてもツルッと滑っちゃう。だから焦げがフライパンの表面に固着したくてもツルッと剥がれちゃうのですね。

 布の表面は鉄やアルミとは比較にならないくらいデコボコしてますから、いくらテフロンの液体をかけてもフライパンみたいになることはありませんけど、それでも何もやらないよりはましでしょうね。

 それから布製品の消臭スプレーをあらかじめ吹き付けておくのも、においの付着防止効果がありますよ。まあテフロンみたいに付着を防ぐのではありませんが「付いてもあまり気にならない」効果があります。

 一番確実な方法?「煙草を吸っている人間のいる場所に行かない」ってことですね。歩きタバコの人? 走って追い抜くか離れちゃえばいいでしょ。

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