第31話
「……んっ、んんっ! もう、離れてよ。いつまでくっついてんの。こんなところ、賢一くんに見られたら本当に終わっちゃうんだから!」
「あ、うん……そうだね」
「なに、名残惜しそうにしてんの。キモチワルイ。あんたには彼女が居るんだから、それで良いでしょっ!」
弐宮の包容力に満たされる時間はおしまいだ。私が好きなのは、あんたじゃなくて賢一くんなんだから。なつと私を二股に掛けた、最低男がやさしくしないでよ!
ドン、と勢いよく突っぱねる。
「ま、まあ。普段の四葉さんに戻ってよかったよ。しおらしい四葉さんって、なんかこっちまで調子悪くなるし」
「…‥どういう意味、それ? なつの目の前でまた壁ドンとかしてもいいんだよ? んー?」
「ホントにごめんなさい! 思ったことをそのまま言っちゃっただけで……あっ」
こいつ……マジで。
前言撤回したいくらいだ。
「ええと。四葉さんは僕たちの班のメンバーってことで良いんだよね?」
「そーだよ。賢一くんに誘われたときはぬか喜びしちゃったけどね。ぜんぶ、なつの差し金なんでしょ? っていうか、当の本人はどこに居るの?」
「あー。ドーナツ屋に居るって。二取く……二取さんと一緒に」
なつが蛍と……? 珍しい組み合わせだ。でも確か、蛍はなつのことをよく思っていなかったはずだけど。どういう風の吹き回しだろう。
「学校に居ないならいいや。なつの件は臨海学校で片付けるとして――」
「いやいやいや! そういう、友だちとのゴタゴタはホットなうちに解決しないと、だんだん気まずくなるってば! 僕、やだよ? 6人班なのに実質5人班みたいになるのは!」
ものすごい勢いで抗議された、なに、こいつ。耳元で。うるさ。
私との体格差、考えたことある? 子ウサギに大音量のDJ聞かせるとか相当クレイジーじゃない? モラル終わってるよ、マジで。
いちおう、弐宮にはそれなりの恩義があるので口を噤んだけどさ。
「このまま放っておいたら、仲直りのタイミングを悉く失って友だちにすら戻れなくなるかもしれないよ!? それでも良いんなら、僕だって四葉さんのフォローもしないし……」
「はぁ? なんであんたが私の肩を持つワケ? ちょっとチューされたくらいで好意的に見てるとかそういうクチなら、考えを改めたほうがいいよ」
「そ、そういうワケじゃ……四葉さんがひとりでなつと和解できるんだったら、僕もそれで構わないんだけどさ。でもなんか、簡単に終わらなさそうで」
はっ、なんか言っとるわ、こやつ。
私がなつと仲直りできないだって? それはさすがに舐めすぎ。舐めすぎ案件。
「いまに見てなさいよ、弐宮。出会って5秒で和解してあげるんだから!」
「あ……っ、待ってよ、四葉さーん!」
情けない弐宮の声を背中に浴びながらその場を去る。舐めたこと言ってくれるじゃない。こう見えても、数日前まではお互いに、ヒマな時にハグハグチュギュし合っていたほどの仲だったんだから!
――女子の友情を甘く見るんじゃないよっ。
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