第27話

『賢一くん。なんでなつのこと、黙っていたの?』


 先生の都合で授業がなくなり、自習で退屈していたところ、正確なスローで飛んできたメモ紙に、いかにも女の子な可愛らしい丸文字でそんなことが書いてあった。送信元は……四葉か。目が合うと、すぐに逸らされた。

 面と向かって三沢のこと、話し辛かったのかな。それほどまでに三沢との仲が悪くなっているのか? だとして、三沢側が四葉を班に誘おうと思ったのは?

 仲直りがしたいのは分かる。以前の彼女らは往来の場であいさつ代わりにハグをし合うような間柄だった。それが一転、ギクシャクしてしまっているのだから。


『班に三沢が居るのがそんなにイヤか?』


 と書き込んだが、あまりに核心を突き過ぎるのでいったん全消し。

 デリカシーのない男は嫌われますよ、兄さん――いかにも、妹のゆりに言われそうなことだ。デリカ・シー? デリ・カシー? デ・リカシー? くだらない。そんなもの学校で習わないし、一般教養でもないんだからわざわざ俺に求めるな。

 俺はとにかく、話を進めたいんだ。なっにがデリカシーだ。くだらねえ。

 俺に誰かを気遣えるような思慮深さがあるんなら、二取のキャラはずっと”教室のすみっこで玉子焼きの四隅を舐め散らかしている系男子”だっただろうが。

 消した文字をなぞるように書き直し、的確な一投が四葉の背中に直撃する。紙の当たる感触に気付いたのか、一瞥をくれたのち、メモを拾い上げる動作が見えた。


『イヤ……うん、まあ有り体に言えばそうだけど。あやっちとかみやちょんの前で断るのはさすがに気が引けるし。賢一くんのお誘いを承諾したあとだったしね』

『四葉。三沢とのあいだに何があったんだ? おまえら、超絶仲良しの姉妹って感じだったのに、急に犬猿の仲じゃねえか。男でも取り合ったんか?』


 ……おや。スムーズに意見交換ができていたと思ったら、急に四葉の返信が来なくなった。問題の核心を突き過ぎたのか、あるいは。――知らん。あるいは、って格好良いから使ってみたくなっただけだ。講義のレポートくらいにしか使わんし。

 それから、四葉との第1回・メモ紙投げまくり大会は完全になかったものになり、自習の時間は終業のチャイムで幕を下ろした。

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