没25話「男子襲来」
【注意】
このエピソードは前回投稿された「第25話」の異なる世界線のお話です。
残さなくてもよかったのですが、2話分に相当する文字数でしたので、
意を決して投稿することにしました。これは別に読まなくてもいいです。
*
「いやいやいや。いくら壱河学級委員だからって、引き抜きは許さんぞ。四葉さんは俺たちのもんだ!」
「そっ、そうだそうだ。四葉さんは僕たちの希望なんだ! そう易々と引き下がる訳には! 四葉さんが良くたって、僕たちは決して屈しない!!」
四葉のスカウトに成功した――と思いきや、ハッピーエンド間近で四葉の元グルメンと思わしき男子たちが途端、群がってきた。それはもう、期間限定のフラペチーノに集る女子中学生みたいにうじゃうじゃと。
……ったく、盗み聞きかよ。感心しねえなぁ。
普段は大した主張をしないくせに。クラスでの決めごととか、意見出しのときにもそのくらいの積極性をだな――なぜに、四葉の引き抜きで刃向かってくる?
「希望? 何を言っているんだよ。四葉がこっちに来たいっていうんだから、それで話は終わりのはずだろう。あっさり終わっていいエピローグを冗長に語るなよ」
「うるさいっ。イケメンの壱河学級委員には永久に分からないだろうよ! 教室のすみっこで弁当の玉子焼きの四隅をぺろぺろ舐めるしかできない俺たちにとって、四葉さんがいかに偉大な存在であるかなんて!」
「なんで玉子焼きを舐めるんだよ。もぐもぐ噛まないと味が分からないだろうが」
まあ、出汁の効いたぐしょぐしょの卵焼きなら一理ある。だが、壱河家で振る舞われる玉子焼きは、基本的には砂糖で味付けされた、仄かに甘いやつだ。
舐めて味が分かるような玉子焼きなんか、まるでアイデンティティを成していない。そんなの、飴で成立する。尤も、玉子焼き味の飴なんか要らないが。
「てか、よっちゃんが希望ってどーいうこと? あたしらは希望じゃないっての?」
「……いや、お前らもいちおう、希望っちゃあ希望だよ。予備枠だけどな」
「意味が分かんない。要するにウチらのかなたたんが大好きってこと?」
「ち、ちげーし! おまっ、ナニやべえこと言ってんだよ! そ、そんな訳ねーだろ! ……ったく、ナニを言ってんだか!」
分かりやすっ。なんだ、こいつら。四葉のことが好きだったから引き留めていただけか。普段から大した主張をしないくせに、譲れないものがあるのは立派だな。
「――とにかく、とにかくだ。壱河学級委員に四葉さんは渡さんぞ! どうせ、壱河学級委員のところでは既に、国宝級の美少女たちがグルメン化してんだろぉ!?」
「……国宝級、ねえ」
三沢は、見てくれだけなら可憐で清楚なイメージこそあるが、オレに対する言動は小悪魔ちゃんだったり、雄二にべた惚れだったり、ビジュアルと真逆だし。
五反田は、喋らなかったら綺麗めな女の子って感じだけど、いざ口を開けばやれビンタがどうのこうのと、ヒトの頬骨を削ることしか考えていないビンタ狂いだし。
――あいつらの、どこが美少女だって? 微少女の間違いでは?
「壱河学級委員! 俺たちにもかけがえのない青春を送らせろっ! クラスメイトの水着姿を間近で拝むくらいは堪能したっていいはずだろっ!?」
「え? 希望ってそういうこと? ……まあ、確かにこのなかだと、よっちゃんがいちばんおっきいけど。背丈は小さいのに、そこだけはパツパツなんだよね~」
動機こそ不純で下劣極まりないが、そこまで必死に懇願されると、せっかくの決意が揺らいでしまいそうになる。……オレも絶対に譲らないけどな?
だからつい、美少女のおすそ分け的な同情が湧いてしまいそうになる。クラスメイトの水着姿なんて、よほど日常が輝いていない限りは、学外ですら拝めそうにないもんな。年頃の男子は同級生の刹那的な魅力に目がないだろうし。
――が、四葉がどのグループに所属するかは彼女自身が決めることだ。
オレは既に四葉の異動許可をもらった身だが、四葉がこいつらに希望や夢を見せてあげたいのなら、仕方ない。それなら、おとなしく引き下がるだけだからな。
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