第23話

「……よう、四葉。いまヒマか?」

「わ、わっ!? けっ、賢一くん!? どっ、どうしたの!?」


 なぜか、四葉のグループ内で黄色い歓声が沸き上がる。おいおい、なんだよその反応は、オレがまるで女子高の敷地内に侵入した露出魔みたいな感じじゃないか。


「なんだよ、その慌てっぷりは。オレの悪口で盛り上がっていたりでもしたか?」

「そ、そんなことないよ。賢一くんは学級委員で背も高いし運動もできるし、勉強はいまいちだけどかっこよくて、みんなのこともよく見ているし、勉強面以外では頼りになる男の子だよ!」

「お、おお……。真正面でそんな風に言われると、ちょっと照れるな……。っていうか、誰がバカだ。こう見えても成績は中の下だし、父さんは東大の理Ⅲを出ている」

「うわ。自分のじゃなくて、親の学歴をマウント材料に……。賢一くん、なんかダサいよ? それに、成績が中の下はシンプルに勉強ができないやつ……」


 確かに。父さんの自慢話をしているでは、他人の褌で相撲を取っている感が否めない。雄二とか三沢と話しているときにも思うが、オレは雑談がへたくそだ。

 美容師との会話に気まずさを感じて無言で終わるときのほうが多いし、友だちが知らない生徒と話しているときには一切口を挟まない。閉鎖的コミュニケーション。


「……それで? 壱河学級委員はウチらのかっわい~かなたたんになんの用?」


 四葉の肩を抱きながら、グループの1人が庇護欲満載に話しかけてくる。女子グループに猪突猛進したのは失敗だったか、男子同士のそれと比べてノリがきつい。

 嬉々として話しかけておいて、そのノリのきつさに慌てふためくのもなかなかにヤバいやつだな。三沢に脅される日々を胸に、心を切り替えて誘いの文言をば。


「ああ。ちょっと、臨海学校の件でな。オレの班、メンバーが1人足りないんだ。良かったら、四葉をメンバーとして加入させたいんだが、そっちでもう既に組んじまったか?」

「ん~。そだね……ウチら3人は既にあっちのおとなしめ男子群3人と数合わせ的なグループを結成しちゃったから、引き抜きは厳しめかも。壱河学級委員がもうちょっと早かったら、ワンチャンあったかも?」

「壱河くん直々のご指名だなんて、四葉も隅に置けないね。これはひょっとして、ひょっとするんじゃないの? かなたたん、いっつも壱河くんの話をしているもんね」

「ちょ、ちょっと! あんまりテキトーなこと言わないでよっ」

「え~? そう、いっちょまえに恥ずかしがらなくてもいいじゃん。……あ。この話、壱河君の前ではオフ〇コだったっけ? ま、時間の問題だし、よくない?」

「よくない! それと、賢一くんの前でえげつない下ネタやめてよ! そういうノリは女子同士でじゃないと許容されないから! オフレコ、ね!!」


 なんだかよく分からないが、四葉は既にほかのグループのメンバーにされてしまっているらしい。遅かったか……これではまた三沢に秘密を握られたままの生活に戻ってしまう。

 だからそんなの、何がなんでも終わらせるしかねーよな? 三沢みたいに、どんな手段を尽くしても目的を達成するような獰猛さがないと、夢を叶えることなんかできないんだ。

 ――たとえ、なにを利用したとしても、な。

 心は痛むが、四葉は多少なりともオレのことを懇意に思ってくれている、とみた。それが思春期特有の勘違いでなければ、の話だが。

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