第22話

『賢一くん。ゆきと雄二はどこに居るのかは知らないけど、すぐ教室に帰ってくると思う! わたしは二取くんと学校をサボってお茶しているので、適当にごまかしておいてください(*´ω`)』


 午前中の、2つぶんの授業が終わって、頬杖をついてぼうっとしていると、不意にひどいメールが来た。三沢はいつだって、共犯者の片棒を担がせようとしてくる。

 ――あのときもそうだった。オレがしょうもないケガをしたあのときも、まるで恋人みたいな雰囲気を醸し出し、廊下でこちらの様子を窺っていた雄二を騙すような真似を。

 あのときは胸が痛かった。幼なじみとしても、友だちとしても、仲が良かったはずの三沢と雄二の関係を壊してしまうんじゃないかって、たまらなく不安だった。

 オレなんかのせいで、誰かが傷ついてしまうんじゃないかって。それが嫌だった。

 ……なのに、三沢は想像し得る最悪な展開――雄二が許さずに誰かほかのヒトとつがいになる場合――を視野に入れることすらなく、雄二のやさしさにかまけ、自分の無垢な恋心を逆撫でするような暴挙に出た。


「やっぱり……スゲーよ、こいつ。少なくとも、オレには勝てそうもない」


 クラスメイトたちの喧騒に紛れるくらい小さな溜め息を吐く。残念ながら、オレは自分の目的のためなら手段を択ばない狡猾さや獰猛さは持ち合わせていない。

 やたらと改行されてある先の、最後の文章から三沢の芯の強さを感じる。


(中略)


『P.S. 追伸:かなたを臨海学校の班に入れたいから誘っておいてくれるかな。

この指令をクリアできたら、やめます( *´艸`)』


「っていうか、PSと追伸は同じ意味だよ……。追い鰹じゃねーんだから」


 そういえば、三沢のヤツ……。四葉と気まずい感じになっていたよな。だから自分では誘えなくって、オレに頼ってきたのか。存外可愛いところあるじゃん――とか思ってしまうと、あいつのペースに惑わされてしまうのが関の山。

 思えば、どうしてオレは○○に告白して振られたことを三沢に話してしまったのだろう。そんなの、弱みにしかならないのに。

 きっと、誰かに話して楽になりたかったんだ。その場しのぎの癒しだったとしても、そのときのオレには永遠の安寧に思えてならなかったんだ。

 三沢との奇抜な関係が続いているのは、だからなんだと思う。オレが弱い人間だから、三沢にコトの成り行きを委ねてしまっている。

 その行いが最低であることは自覚している。でも、それでオレが主導権を握ったところで、どうにもならないことも知っている。オレなんかでは世界を変えられない。



 ――オレはただの一生徒モブなのだから。



 まあ、別に金銭とかカラダとか要求されていないから良いんだけどな……。あのときの唯一の救いは、雄二が底抜けのやさしさの持ち主だったということだ。

 それがなければ、現在のままの関係を築けてはいないし、あのときできっと何もかもが終わっていた。誰も救われないし、誰も笑えていなかったはずだ。

 ひとつの裏切りがすべてを破滅に導く――そんな結末を迎えていただろう。


「罪滅ぼしって訳じゃないが。雄二や五反田、四葉とか、二取。ついでに三沢……? とにかく、オレの周りに居るやつらには笑顔でいてもらわねーとな?」


 二取には公衆の面前でとてもひどいことをしてしまったし、こんなことをしたところでオレのなかから贖罪の念が消えそうにもないが。――背に腹は代えられない。

 このミッションは俺がクリアするべきだ。席を立ち、四葉のもとへと向かう。

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