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「許されないこと……? なんだろ。ほたるがゆきにされたこと……うーん」
とりあえず、ほたるが学校に来ないことと、その理由が単なる風邪などではないということしか知らない。あんまり、蚊帳の外の私が入り込んでいい領域じゃないっていうのは分かっているんだけど――でも。
親友たちが苦しんでいるのを放っておけるほど、私も薄情じゃないってことだ。傷つく覚悟なら、とうにできている。だからこそ、第三者になってしまった自分が憎いのだ、きっと。
ゆきはずっと悲しい顔をしていた。おそらくはほたるが居ないと晴れることはないだろう。そんな予感がする。――ならば、あるいは、もう。手遅れなのかもしれない。
永遠にこの問題は解決しなくて、私たちが3人でまた笑い合える世界なんて、やって来ないのかもしれない。悲しみに打ちひしがれて、この先ずっと塞ぎ込んだままなのかもしれない。
「……そんなの、嫌だよ。このまま終わるなんて、絶対に……!」
思わず唇を噛み締める。どうしてゆきが、ほたるが、泣き寝入りしないといけないんだ。――不公平じゃないか、そんなの。
ほたるの家へと向かっているあいだに、概ねそんなことを考えていた。彼女は中学生にしては珍しくひとり暮らしをしているから、家のヒトに気遣いをする必要がないのがいい。
だけど。だからこそ、ほたるを寂しくさせているんじゃないかと、つい不安になる。彼女が不登校気味になって1週間が経過しているし、それまでSNSでの既読すらも付いていなかった。
「死んじゃった……なんてことは、さすがにない……よね?」
この世からすでに去っていたゆえに、メッセージを見ることも、学校に来ることもなかったのだとしたら、合点がいく。いってしまう。最悪な想像だ。真っ先に思い当たるのが、こんな最低な可能性なんて。
逸る気持ちを抑えきれなくなって、ほとんど走ってきてしまった。運動音痴なのがなんだか嘘みたいに、身体が軽かったような気がする。
インターホンを鳴らす。機械越しのくぐもった声で「……どなたですか」と、ほたるらしき女の子が尋ねてきた。やけに低い声で驚いたが、すかさず言葉を返す。
「ほたる……? 私だよ、かなただよ。なんで学校に来なくなっちゃったの? ゆきも心配しているよ?」
「ゆき、が? ……学校にはもう行かないよ。もうとっくに推薦もらったし。早めの春休みってとこかな。わたし――じゃないや。ボクのことは気にしなくていいよ」
すぐに何かあったってことには気付いたが、弱々しいほたるの声を聴いて何も言えなくなってしまった。万事休す。一瞬だけ口を閉ざしたところで、もう一度ほたるの声が聞こえる。
「かなた。ボクのことは今後一切、名字で呼んでもらえる……かな。大崎さんにも伝えておいて。それじゃあ……またいつか」
「待ってよ、ほたる! ゆきとケンカしたんだったら、私も一緒に謝るから! ふたりがこんな感じになっているの、見ていて辛いよ! 仲直りしようよ……ね?」
「ケンカじゃないんだよ、かなた。ゆきは悪くないんだ。ただボクは、自分が心底嫌になっただけ」
ぎこちない言葉に、遠慮がちな口調。明らかに無理をしている感じが窺えた。ほたるはいま、どんな顔をしているんだろ。きっと辛そうにしている。
私のわがままでしかないんだけど、彼女には――もちろん、ゆきにも――私の前では笑っていてほしい。友だちの悲しげな表情は見たくない。
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