第6話
「ジャージ……あたしのでいいかしら」
「うん。ありがとう。……すんすん。ゆきの匂いがするぅ」
「フローラルなやつは市販の洗剤だけれどね。サイズは合う?」
「えっと……うん。息をするのがちょっと苦しいけど、ぴったり、かな」
そりゃあ、そうだ。
大丈夫かしら、あたし。さっきからずっと蛍のおっぱいしか見ていない。触ってみたい欲望こそあるが、蛍のあのときの傷はまだ癒えていないはずだ。だけど謎の魔力か何かで目を逸らせない。
「あの……ゆき? もう着替え終わったけど……」
「あっ、ごめんなさい。ちょっと考えごとをしていたわ」
「……ウソ吐き。どこを見ていたか、分かるんだよ。そういう視線には敏感だし」
バレていた。ひょっとしたら、凝視し過ぎたのかもしれない。次からは視界の隅っこに捉えるようにして、たわわに実った蛍の果実たちを観賞していよう。
「ええと。ちょっとだけなら、いいよ。だけど、あんまり痛くしないでね?」
「扱い方は心得ているわ。暇つぶしに自分のを触ることがあるから」
「暇つぶしに? んー、深くは聞かないでおくよ。ゆきもお年頃だもんね……うん」
なんだか変に納得されてしまった。エロいことに使っている訳じゃないのに。手持ち無沙汰のときに、ぷよんぷよんって手のひらで弄ぶときってないのかしら。あたしだけ? だとして、無性に寂しくなる。蛍に変態だって思われたら凄まじく嫌だな。
もちろん、ひとりきりのとき限定だ。誰かの前でヤッていたら、それこそただの変態だし。そんなひどい烙印を蛍に押されるくらいなら、堂々と華々しく散ってやる。
煩悩はヒト並みにあるけれど、暴走する程度ではないというような。少なくとも、蛍を傷つけた野蛮なやつらとは違う、と断言できる。あたしはだいぶ、まともだ。
「ふむふむ。ほうほう。意外に弾力があって、張りもあるわね? この柔らかさ……さては、なまちちね⁉ ほたるって、ブラ着けてないの? このサイズのがない?」
「この大きさのやつがないのもそうだけど。単純にそんなの、男子の制服のやつが着ていたら変態だと思われるでしょ。それに、ほんとのワタシがバレちゃう」
「世間体を考えたってこと? 意外と気にしいなのね、蛍。自分以外の人間なんてどうせ他人なのだから、あんまり意識する必要もないと思うけれど。悪いことなんてしていないんだし、文字通りに胸を張って、堂々としていればいいんじゃないかしら」
「あはは……ゆきみたいにしていられたら、よほど気楽なんだろうけどね。ワタシにはムリだよ、そんな度胸もないし。……っていうか、ゆきはいつまで触っているの」
軽くお叱りを受けたが、あたしは気にしていない。友だちの胸を揉みしだくことが悪い所業だとは思っていないから。むしろ、これが天命だとさえ感じている。
――ああ、これで時給が発生しないかしら。
さすがに冗談だけれど、そろそろ蛍の目つきが鋭くなってきたように思えるので、しぶしぶ手を離す。リハビリはこれくらいで良いんじゃないかしら。たぶん。
「……もうやめちゃうの? めくるめく百合ワールドに誘ってほしかったのに~」
「え?」
聞きなじみのある声がして振り向くと、覗けるほどの隙間からなつがこちらを嬉々として見つめていた。変態ストーカーのごとき悪質な覗きで、思わず背筋が凍る。
「なつ……いつからそこに?」
「ほんとは二取くんとゆき、ふたりの体調の心配をして保健室に居るかな~って思って、なんとなく立ち寄っただけなんだけどね。いやらしいことをおっぱじめちゃったから、つい魅入っちゃって。わたし、こう見えても思春期の女の子だから……」
思春期だから覗いてしまったのは情状酌量の余地があるとは思うけれど、蛍の成長チェックをしていただけなのに、それをいやらしいことだと言ったのは良くない。
……心配して来てくれたのは嬉しいけれど!
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