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「え? ほたる、今日も休みなの⁉」
「そう、みたいね」
「そうみたいね――って。なんか……ゆき、冷たくない? 友だちでしょ?」
ほたるが学校に来なくなって、今日で1週間が経とうとしていた。担任の先生はほたるが休んでいるのは風邪のせいだと言っていたが、さすがに嘘だろう。
スマホでほたるにメッセージを送って、既読にすらならないのはおかしい。風邪程度の症状なら、返信くらい容易いはず。なんなら、私が蛍の立場だとしたら、寂しさのあまり、自室のベッドでひとりだし、いろんなヒトにメールしまくっている。
「それは、友だちだからこそ、よ……。かなたにはいちおう、言っておくわ。とどのつまり、あたしはほたるを守れなかった。むしろ、あたしのせいでほたるは……」
「え、ええと……それって、どういうこと? 私、状況がよく分からないんだけど」
いまの、ゆきの言葉で、ほたるの休んでいた原因が風邪ではないことが確定した――んだけど、依然としてゆきの表情の意図が読み取れない。どうしてそんなに悲しそうなの? どうしようもなく、泣いてしまいそうなくらいに俯いているの?
「なんて言えばいいのかしら。ケンカした、というのとは少し違うわね。あたしはほたるに許されないことをしたの。それで、拒絶されてしまった……のかしらね?」
「許されないこと……?」
「ええ。より正確に言うと、あたしが無自覚なせいで、代わりにほたるが傷ついてしまったの。そんなつもりはなかったのに、あたしのしわ寄せは彼女に向かった……」
いったい、どこを正確に言ったんだ。いちいち断片的で、相変わらず言っている意味が分からない。――きっと。おそらくは、ゆきも辛いんだ。だから伝えるのが怖くて、いまにも泣き出してしまいそうなんだ。――仮にそうだとして。
ほたるは、いま。どういう状況に置かれているのだろう。私の想像が及ばない範囲でたぶん、ふたりは苦しんでいる。できるなら私は、ふたりを救ってあげたい。ふたりの友だちとして。唯一無二の親友として。だから、これは蚊帳の外でも関係ない。
「……ごめんなさい、かなた。朝から気分の良くない話をしちゃったわね」
「そんなことないよ。私ってば、ふたりがそんなことになっていたの、ぜんぜん気付かなかった。……ねえ、ほたるは風邪じゃないんだね? いったい何があったの?」
それから、ほたるについてゆきに聞き出そうとしたけど、返ってくる言葉はどれも曖昧なものだった。傷つく覚悟はしていたのに、どうして。それくらいショッキングなできごとがあったのだろうか。頭に浮かぶものはどれも、想像の域を出ない。
あるいは、ゆきも知らないのかもしれない。だから説明できるような言葉のまとまりが浮かばなくって、言いあぐねている――なら、なぜ私には相談してくれないの?
ゆきが教えてくれないのなら。私はほたるのところに行ってやる。そんなに長引く風邪なら、おかゆでも食べさせてあげようじゃないか。ママのお墨付きなんだから。
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