第4話

「雄二。わたしたちも授業、サボっちゃおっか?」


 素晴らしい提案だ。何度も同意を繰り返して申し訳ないが、僕もちょうど同じようなことを言おうとしていた。さすがは幼なじみ。考えていることがよく分かる。


「そうだね。とりあえず、いまはふたりきりになりたいかも」


 先ほどからずっと、僕の身体はどうしようもなく、上質な空気を求めてしまっている。なつとの空間がいちばん心地よい。安心感があるし、気の許せる相手だからこその温もりを感じられるから。ただし、そこには疚しい気持ちはひとつもないけど。


「え⁉ それってもしかして、誘っていらっしゃる⁉ 雄二ってば、まだ付き合って24時間も経っていないのに大胆だよぅ。保健室、イッちゃう……?」


「なんかすっごいハイテンションだね、なつ。ところで、誘うってなんのこと?」


「うん? ……あー。えっと、なんでもない。気にしないで。わたしが勝手に舞い上がっちゃっただけだから。うん。まあ、あれだよね。さすがにいきなりはないよね。夜の獣じゃあるまいし……とにかく、ふたりだけで居れる場所でも探そっか」


「……ん? うん、そうだね。ふたりで居れる場所かあ……」


 どうしたんだろう。なつのテンションが一気に冷めた気がした。さっきまではあんなに大興奮って感じだったのに。もしかして僕、何かしらヤッちゃいました?


 だとして、心当たりがない。残念ながら。乙女心が分かる能力でもあったらよかったんだけど、やっぱり思い当たる節がなかった。ごめんね、次はうまくやるから!


「あ! 屋上はどうかな? サボりスポットとしては定番じゃない?」


「屋上って立ち入り禁止じゃなかったっけ? っていうか、だいたい入れないよね。小学校のときも中学校のときも、立ち入り禁止だった記憶があるよ」


「確かに。青春3大要素と云えば、屋上・膝枕・買い食いなのに、なんで屋上って入れないんだろ。入れないなら、なんであるんだろうね。逆に迷惑だよっ!」


 まったくの暴論で、つい笑みがこぼれる。屋上の存在意義って青春を彩るためだったっけ。入ったことがないのでよく分からないが、でもなつの言う通り、入れないくせに、そこにあるのは迷惑だ。気になって入りたくなるじゃないか。


 いわゆる、カリギュラ効果というやつだ。禁止されたものほどやりたくなる。


 たとえば、浮気。たとえば、殺人。たとえば、薬物。その他諸々のあくどい行為。それらが絶えないのはきっと、人間という生きものが愚かだからだ。知らないけど。


「雄二は思いついたサボりスポットとかはないの? オススメはどこ?」


「そんなの、ないよ。サボったことないもの」


「あちゃ~。聞く相手を間違えちゃったかー。ゆーじはマジメだもんね。小学校のときの遠足で、ひとりだけおやつがきっかり300円だったし」


「そんなことないよ。消費税付きで315円だったよ、当時は!」


 だいたい、僕程度のやつがマジメに分類されるんだったら、本物の真面目な方たちが可哀想だ。なんというか、失礼にあたる気がする。誹謗中傷かなんかで。

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