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「そしてきみは、想う矢印の先を、ボクに向けた。けっきょく、きみは愛されたいだけなんだよ。誰でもいいんだよね? 就職氷河期の就活生みたいに、選り好みしていないもんね」
「そ、そんなこと……」
「否定はできないはずだよ。きみは――いや、人間という生きものは最初からずっと、愛に飢えているものなんだ。ボクだってそうだよ。特別な愛がほしいんだ」
「特別な愛……?」
「むろん、好きなヒトからの気持ちのことだよ。それ以外の愛は等しく無意味だ。それとも、きみは初恋を失ってしまった絶望を埋めるのに必死なのかい?」
目を閉じて考える。わたしは二取くんに愛されたいの? 誰でもいいの? ……分からない。行き場のない矢印を誰に向ければいいの? 二取くん?
「……二取くん。お願いがあるの」
「なに? ボクにできるようなことなら、叶える努力はするよ」
「わたしと付き合っているんだから、わたしを受け入れて。愛ってそういうものでしょ? たぶん」
「押しつけがましい愛は嫌いじゃないけど、そういうのってどちらかと言えば、傷の舐め合いに近いよね。それでもいいのなら、喜んでボクはきみを歓迎するよ」
なんでもいい。もう、わたしにはなんにも残っていない。空虚だ。……ああ。わたしはひどい女の子だ。早く楽になろうとしている。この胸の痛みを持続させたくなくって、自分が幸せになることを優先してしまっている。そんなわたしが嫌いだ。
「じゃあ、まずは場所を変えようか。……そうだな、ボクらの教室にしよう」
「どうして、そんなとこで……?」
「見せつけてやるんだよ。これはね、復讐でもあるんだ。感情戦争さ。ボクらの気持ちに気付くことができなかった、鈍くて哀れな彼らを容赦なく殺してやるんだよ」
なるほど。それは妙案だ。笑顔に近い表情ではにかむ。うまく笑えているのかな。
「……さて。何から始めようか。やっぱり雰囲気を盛り上げるためにキスから?」
「う、うん。はじめてだからやさしくしてね……?」
「やさしくないキスってなに? 可愛い顔して、考えていることドスケベだね」
「そんなこと言わないでよ……ねえ、早くわたしを愛して」
二取くんに期待して目を閉じる。こんなときでもわたしの脳裏に浮かぶのは雄二のことだった。やっぱり簡単には捨てられないよ。誰かの温もりを雄二として感じることで疑似的な幸せを手に入れたいと思うのは、良くないことなのかな。
「んんっ……二取くんって、くちびる柔らかいんだね?」
「やめてくれるかな、そういう率直な感想を述べるの。恥ずかしいじゃん」
「んんんむ……んちゅ。二取くぅん。もっと、シて……?」
――ああ。早いよ、三沢なつ。
堕ちるのが。
でも、それも弐宮雄二が悪いんだよね。おそらくは、そう言い聞かせることでしか、きみは強がれないのだと思う。わたしは悪くないんだって責任逃れをしないと、簡単に壊れてしまうから。賢明な判断だと思うよ。善悪は別として。
この結末も悪くないんじゃないかと、錯覚してしまいそうになるくらいには、ボクも気分がよかった。確かに、名もなき有象無象に穢されるよりかはずっと、マシなのかもしれない。――なんてったって、ボクの二の舞を踏まずに済むからね。
なんて、伝わる訳ないんだけどね。彼女はボクがワタシだった頃を知らない。平行線にも居ない。だけどある意味、三沢なつも被害者だ。ボクの空想世界で辱めを受けているからね。これまでに2回。初めての悪夢は神さまに奪われてしまったけれど。
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